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2021年08月号 「硬性の開口障害」
4.咀嚼筋腱・腱膜過形成症

 自験例は、患者の希望で、機械的刺激によりしばしば被覆粘膜に潰瘍を生じる口蓋隆起を切除するとともに、著明な開口障害の原因となっている咀嚼筋腱・腱膜過形成症に対する手術治療を行う方針とした。
 咀嚼筋腱・腱膜過形成症は、咬筋、側頭筋などの咀嚼筋の腱および腱膜が過形成することにより筋の伸展障害を生じることで、硬性の開口障害を来す疾患である。比較的新しい疾患概念であり、臨床像は不明な点が多いことから顎関節症や咬筋肥大症などと診断されてきた可能性がある。その成因は定かではなく、成長発育因子などの先天的要因や過大な咬合負荷などの局所因子の関与などが示唆されており、下顎隆起を有する患者やブラキシズムなどの習癖との関連性も指摘されている。
 また、下顎角が過形成し、いわゆるsquare mandibleを呈する患者に多いともいわれる。自験例においても下顎角の過形成がみられ、著明な口蓋隆起を呈していた。MRI所見では、咬筋の肥大や咬筋前縁に過形成した腱・腱膜を示す無信号領域や木の根状に内側に伸びるstrike root appearanceがみられることが多い。
 治療法は手術療法が選択され、過形成した腱・腱膜の切除が行われるが、同時に筋突起の切断を要する例が多い。さらには過大な下顎角を切除する下顎角形成が追加される例も報告されている。自験例は咬筋の筋膜、腱膜を切除した時点では29mmしか開口できず、両側の筋突起を切離したところで45mmの開口量が得られた(図3)。切除物の病理組織学所見では、腱組織内に微小石灰化が認められた。
 なお、手術療法だけでは開口量が後戻りすることが多く、後療法として継続した開口訓練の重要性が強調されている。自験例でも長期にわたる開口訓練が施行されたが、若干の後戻りが観察された。

【参考文献】
  1. 1)覚道健治,依田哲也:Square mandibleを伴う新概念の開口障害:咀嚼筋腱・腱膜過形成症の病態と治療.日顎誌,21:28-30,2009.
  2. 2)有家 巧,覚道健治:咀嚼筋腱・腱膜過形成症の臨床所見.日顎誌,21:31-34,2009.
  3. 3)小林 馨,下田信治,他:咀嚼筋腱・腱膜過形成症のMR画像診断の現状.日顎誌,21:35-39,2009.
  4. 4)井上農夫男:咀嚼筋腱・腱膜過形成症の治療.日顎誌,21:46-50,2009.
図3 術中写真。左:咬筋前縁に過形成した腱を認める(矢印)。十分筋弛緩されているが、開口量が少ない。右:手術終了時。十分な開口量が得られている
図3 術中写真。左:咬筋前縁に過形成した腱を認める(矢印)。十分筋弛緩されているが、開口量が少ない。右:手術終了時。十分な開口量が得られている

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