A | 4.遺伝性血管性浮腫 |
血管性浮腫については、クインケ浮腫として広く知られている。Quinke により19世紀後半に報告され1)、その後Oslerにより常染色体優性遺伝の形式をとる「遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema:以下、HAE)」が区別された2)。HAEは、疫学的には1万人に1人〜15万人に1人と報告されている稀な疾患である3)。HAEは適切な治療が行われなければ、死に至る可能性もあるため、最初の発作時の正確な診断が重要である。
病態としては、エステラーゼ抑制因子(以下、C1-INH)は補体系、線溶系、凝固系、キニン系に抑制的に働く蛋白であるため、C1-INHの減少・機能低下によりブラジキニンが過剰に産生され、血管透過性が亢進することにより浮腫が生じると考えられている。実際の臨床では過去に同様の症状がないかなど患者の病歴、家族歴の聴取が重要となる。症状としては、初発の浮腫発作は幼児期に発症することが多く、浮腫は数時間から数日(1〜3日程度)で跡かたなく消退する。また、かゆみがなく、顔面や口唇に好発することが特徴である4)。浮腫発作の誘因は精神的・肉体的ストレス、妊娠、薬物などが挙げられ、本症例のように通常の歯科治療や抜歯など口腔外科処置によって誘発されることもある。
抜歯処置など侵襲性の強い歯科治療が必要な際には、短期予防として術前1時間前にC1-INH補充療法を行い、さらに2回目のC1-INH製剤がすぐに使用できるよう準備しておく必要がある。
処置および経過:
抗アレルギー薬(ポララミン5mg)とステロイド薬(サクシゾン300mg)を点滴し浮腫は改善した(図3)。患者より遺伝子検索の同意が得られたためC1-INH定量を行ったところ、12mg/dLと低値を示し、 C1-INH 活性も25以下で低値であったことより、「遺伝性血管性浮腫」と診断された。
発作予防を目的に皮膚科よりトランサミン1,500mg/日が内服処方され、歯科治療時にはC1-INH製剤(ベリナート®P)の予防投与が必要と判断された。以降、20XX+1年6月にを抜歯することとなり、抜歯1時間前にベリナート®P 1,000単位を点滴静注して抜歯を行った。術中・術後ともに浮腫は発現せず、C1-INH製剤による有害事象も認められなかった。その後も、抜歯など外科的処置の際は、C1-INH製剤の術前投与を行い、浮腫の発現はみられない。
- 1)Quincke, HI: Über akutes umschriebenes. Hautödem, Monatsh Prakt Derm, 21:
- 2)Osler, W: Hereditary angio-neurotic edema. Am J Med Sci, 95: 362-366, 1888.
- 3)Visentin DE, Karsh J: C1-elastase inhibitor transfusions in patients with hereditary angioedema. Ann Allegy Asthma Immunol, 80: 457-461, 1988.
- 4)厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 血管性浮腫.2008年3月.
図3 治療後の顔貌写真
<<一覧へ戻る