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2021年4月号 「耳下腺咬筋部のび漫性腫脹」
3.腎がんの下顎骨転移

診断のポイント: 本症例の症状は、右側耳下腺咬筋部の無痛性のび漫性腫脹であるが、症状出現時、感染症であれば必ず伴うといってよい疼痛がないことから、歯性感染症などの炎症は否定的である。感染症以外の疾患としては、腫瘍ないしは嚢胞性疾患をまず考えなければならないが、腫脹の部位からすると咬筋もしくは下顎枝内の病変が疑われる。
 そこで、触診を行い、腫脹の主座がどこにあるのかを確認する必要がある。触診にて、右側下顎枝前縁相当部の粘膜下に膨隆が認められ、表面粘膜は正常であったことから、下顎枝内の病変が増大して耳下腺咬筋部に腫脹を来したと考えられる。ここで初めて、パノラマX線写真を撮影し、下顎枝内部の状態を確認する。視診、触診を疎かにして最初にパノラマX線写真を撮影することは厳に慎まなければならない。
 パノラマX線写真をみると、下顎枝内に境界比較的明瞭な骨吸収像が認められ、病的骨折を来している。初診時に、右側耳下腺咬筋部の開口時痛を訴えていたが、これは病的骨折によるものと考えられ、画像からも感染症は否定的であり、腫瘍性あるいは嚢胞性の疾患を疑う必要がある。ここで考えなければならない点はオトガイ領域の知覚鈍麻で、下顎骨骨髄炎などの炎症性疾患が考えられないのであれば、悪性腫瘍が強く疑われる。パノラマX線写真上で認められた吸収像は、歯肉がんの骨浸潤のような陰影ではなく、顎骨中心性に生じたように見受けられる。したがって、最も疑われる疾患は顎骨中心性がん、つまり、顎骨の内部に生じた悪性疾患ということとなり、生検を施行した。
 その結果、病理組織学的に腎がんの下顎骨転移と診断された(図3)。口腔領域に転移を来す悪性腫瘍の原発臓器としては、肺、子宮、腎の順で多いとされている。原発臓器における自覚症状が乏しい場合には、転移巣が発見された後に原発部位があきらかになることも少なくない。また、原発巣が制御されているからといって、転移を否定できるものではない。
 本症例では、下顎骨転移に加え肺転移もあきらかとなり、化学療法を施行することとなった。

図3 生検材料の病理組織像
図3 生検材料の病理組織像


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