A | 1.ランゲルハンス細胞組織球症 |
ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans Cell Histiocytosis:LCH)は、抗原提示細胞である骨髄に起源を有するランゲルハンス細胞が、単クローン性に異常増殖を来す稀な疾患である。
経過:本症例は右側下顎部に疼痛と腫脹があり、パノラマX線写真にて右側下顎骨に境界不明瞭な透過像を認めた。生検では、炎症細胞浸潤を伴う肉芽組織との診断が得られた。
診断および加療目的で、全身麻酔下にて、肉芽組織の除去および掻爬を行った。病理組織学的所見にて、慢性炎症性細胞浸潤や炎症性肉芽組織を有し、好酸球浸潤がやや目立つ領域があり、好酸性の胞体をもつ異型組織球様細胞の増生がみられ、核は不規則で多核を示すものもみられた。免疫染色でもCD1aおよびS-100蛋白に陽性を示し、Langerinにおいても陽性を示したことから、LCHの診断が得られた。そのため、血液内科と相談のうえ、その後は経過観察とした。
術後2年8ヵ月のパノラマX線写真では、骨の増生を認め、LCHの再燃を疑う所見はない。
ランゲルハンス細胞組織球症の特徴・原因:LCHはhistiocytosis Xと呼ばれ、好酸球肉芽腫症、Letterer-Siwe病、Hand-Schuller-Cristian病の3型に分類されていた。しかし、これらはすべてランゲルハンス細胞由来の疾患であることが証明されたことから、これらを一括してLCHと称するようになった。近年では単一臓器単病変型(SS型)、単一臓器多病変型(SM型)、多臓器多病変型(MM型)に大別されている。MM型ではリスク臓器に浸潤があるリスク臓器浸潤陽性と陰性に分類される。多臓器型になるにつれて患者は低年齢化し、再発率や死亡率も上昇する。
本疾患の成因はいまだ不明で、顎口腔領域における好発部位は下顎臼歯部から下顎枝部とされている。X線所見では孤立性ないし多発性の境界明瞭な打ち抜き像を示すものと、境界不明瞭な像を示すものがあり、嚢胞性病変、骨髄炎、中心性巨細胞肉芽腫、悪性腫瘍との鑑別が困難である。
LCHの治療方針は、病型により異なる。SS型では自然治癒例もみられるが、単臓器病変の場合、外科的掻爬、ステロイドの局所注入、放射線療法が行われ、多臓器病変に対しては化学療法やステロイド療法が選択されることが多い。
本症例では、既往に踝骨と脛骨の骨髄炎があったが、脛骨に関しては自然治癒していたことから、踝骨・脛骨についてもLCHと考えられ、本症例はSM型のLCHであったと考えられる。
顎骨に発生したLCHの臨床症状は、骨痛や腫脹、開口障害、歯の動揺、病的骨折などであり、X線所見では骨破壊像を示し、骨膜反応を認めることもある。これらの症状を認める症例においては、LCHを念頭においた慎重な診断が必要である。
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