A | 4.粘膜類天疱瘡 |
プラークコントロールは良好であるにもかかわらず、歯肉の発赤が改善しないことから、プラーク性の歯周組織炎とは異なる病態と判断し、疱疹性歯肉炎や扁平苔癬などによる粘膜症状や、尋常性天疱瘡や類天疱瘡などの自己免疫疾患による原因を疑った。歯肉から採取した生検組織を病理組織学的に評価したところ、びらん形成を伴う上皮に著明な炎症性細胞浸潤を認め、類天疱瘡に特徴的な上皮下の水疱形成を示す裂隙を認めた(図2)。
さらに、蛍光抗体直接法により、粘膜類天疱瘡の診断に必須とされる上皮基底膜部におけるIgG、IgA(図3a、b)およびC3の線状沈着も認めた。1M食塩水剥離正常ヒト皮膚切片を用いた蛍光抗体間接法で表皮側に反応を認めたことから(図3c、d)、粘膜類天疱瘡の一つであるラミニン332型粘膜類天疱瘡と診断された。
●粘膜類天疱瘡
粘膜類天疱瘡(Mucous membrane pemphigoid:MMP)は、BP180やラミニン332などの上皮基底膜部の標的抗原に対する自己抗体により、多数の上皮下水疱やびらん性病変が粘膜優位に発生する比較的稀な自己免疫性水疱症で、その発症頻度は100万人に1人と報告され、50代以上の女性に多いとされている。おもに歯肉や口蓋、頬などの口腔粘膜や眼粘膜に発症するが、その他に鼻咽頭、喉頭、食道などの上気道部や、外陰部や肛門周囲にも発症する。抗BP180型MMPが最も多く、MMP全体の70〜80%を占めるが、本症例の抗ラミニン332型MMPは、胃がんなど悪性腫瘍の合併リスクが高いとされており、とくに注意が必要である。
MMPの治療は、症状が口腔粘膜と皮膚に限局するLow-riskのものでは、ステロイドの局所使用などが推奨され、目や喉頭、食道、外陰部などに症状を呈するHigh-riskのものでは、ステロイドの全身投与に加え、免疫抑制剤の使用や血漿交換療法なども行われる。
本症例は、口腔粘膜の症状に加え眼瞼癒着の症状を認めたが、皮膚科および眼科で精査したところ、症状は比較的軽症であったことから、ステロイド内服治療が選択された。投与から3ヵ月ほどで口腔内の症状はほぼ治癒した。
図2 上皮下に著明な炎症性細胞浸潤と、
水疱形成を示す裂隙を認めた
図3 上皮基底膜部におけるIgG、IgAの線状沈着
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