A | 2.口腔扁平苔癬 |
口腔扁平苔癬(Oral Lichen Planus:OLP)は日常臨床において遭遇する機会の多い病変で、中年以降の女性に多いと報告されている。好発部位は頬粘膜だが、舌や口唇、歯肉にも出現する。原因については正確には不明で、アレルギー、遺伝性、自己免疫疾患、代謝障害などの関与が考えられている。
OLPのなかには0.5〜3%において悪性化することが報告されており、2017年改訂のWHO分類では口腔潜在的悪性疾患として取り扱われるようになった。OLPは類似疾患との鑑別が困難であり、さらには難治性の症例が多い。臨床的診断で扁平苔癬とされたものの正診率は60%程度で、実際には病理学的に角化症、扁平上皮がん、潰瘍、OED(上皮異形成)、天疱瘡などと診断されており、生検にて確定診断をつける必要がある1)。
臨床視診型(Silvermanの病型分類)として、①網状型、②萎縮型、③ びらん型があり、網状型は自覚症状が乏しいことが多い。本症例も網状型でほぼ自覚症状はなかった。一方、びらん型には病理組織学的に扁平上皮がんや天疱瘡である場合も多いとされている。
扁平苔癬は手背や四肢の皮膚、爪、外陰部粘膜にも好発することが知られている。爪の所見としては爪甲の縦溝、剥離、消失などが挙げられる。OLPと他部位に症状を併発する頻度は15%と報告されている。また、皮膚扁平苔癬のある患者がOLPを発症する頻度は30%とも報告されており、問診時には注意が必要である。
扁平苔癬は金属アレルギーとの関連も示唆されており、OLPと診断された患者の45%に金属アレルギーが陽性であったとの報告もある。さらにその金属アレルギー陽性患者の口腔内の金属を撤去したことで、症状が改善した症例が約20%あったとも報告されている2)。過去にはアマルガムを除去したことで口腔、皮膚の扁平苔癬が改善したとの報告などが散見される。
OLPの治療は、免疫反応の抑制を目的に副腎皮質ステロイド軟膏の塗布が一般的に行われている。ビタミンA製剤の内服も有効とされており、その他にアルカロイド(セファランチン)や漢方薬の内服、症状が著しい場合にはステロイド内服や免疫抑制剤の内服も検討しなくてはならない。しかし、いかなる場合にも口腔衛生状態の維持が必須となる。
OLPは鑑別が難しいことが多く、必要に応じて生検の施行が望ましい。また、少ないながらもがん化することがあり、長期の経過観察が望まれる。さらに、扁平苔癬を疑う患者においては皮膚や爪の診察を行うことも推奨されており、必要に応じて皮膚科への対診も検討すべきである。また、金属アレルギーとの関連も視野に入れて治療する必要がある。
- 1)須藤満理奈,他:初診時に口腔扁平苔癬と臨床診断した187例に関する検討.日口科誌,66:19-24,2017.
- 2)森山雅文,他:口腔扁平苔癬および掌蹠膿疱症の発症と金属アレルギーとの関連についての検討.日口外誌,58:718-722,2012.