A | 4.悪性リンパ腫 |
【診断と経過】
初診時、上唇粘膜から歯肉にかけて潰瘍性病変を認め、義歯や下顎前歯部による褥瘡ではなく、抜歯との因果関係は不明であった。腫瘍性病変が疑われたため生検を施行したところ、悪性リンパ腫(び漫性大細胞型Bリンパ腫Dffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)の診断を得た。また、関節リウマチに対してMTXを内服していることから、MTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)の疑いがあるため血液内科に対診した。血液内科で精査加療のため入院し、悪性リンパ腫の指標となる可溶性IL-2レセプターは高値を呈し、生検結果と合わせ、MTX関連の悪性リンパ腫の診断となった。全身検索で他に増殖性疾患は認めなかったため、MTXの内服を中止し、化学療法(R-CHOP療法)を開始した。その後、上唇部の病変は消失し外来にて経過観察中である。
【解説】
メトトレキサートは抗リウマチ薬として1999年にわが国でリウマトレックス®が承認され、関節リウマチに対する高い有効率、継続率、関節破壊進行抑制効果を有し、薬物療法の基本薬となっている。一方、血液障害や間質性肺炎といった重篤な副作用の他に、MTX投与中に発生するMTX-LPDの報告が増加している。MTX-LPDはMTXを内服している患者に発生するリンパ増殖性疾患と定義され、腫瘍性病変(悪性リンパ腫)、非腫瘍性疾患、境界病変などあらゆるリンパ増殖性疾患を含む。発症部位は節外病変が多く、皮膚や肺、筋、消化管などに生じ、頭頸部領域では扁桃、上咽頭が多く、頸部リンパ節、歯肉、鼻腔、甲状腺、唾液腺などが報告されている。また、発症にはEBウイルスの関連も示唆されている。治療は原因薬剤の中止を行い、不変もしくは増悪であれば化学療法の適応となる。自験例ではEBウイルスの関連は不明であったが原因薬剤であるMTXの中止、化学療法を施行し改善した。
本症例のような口腔粘膜病変に関しては悪性腫瘍を念頭におく必要があり、診断には生検が必須となる。また、MTXを内服している患者は難治性口内炎の頻度が比較的多い。そのため、高齢による腎機能低下や食事摂取困難により脱水を来しやすく、急激に薬剤の血中濃度が上昇することがあり重篤な副作用が出現しやすい。口内炎の他に口腔粘膜のびらんや出血が認められる場合は、汎血球減少症から出血傾向を来し、血液障害による死亡例の報告1)もあるため、迅速にかかりつけ医に相談する必要がある。関節リウマチに対してMTXを内服している患者の歯科治療にあたり、口腔に起こり得る副作用や病変を理解し、診察する必要がある。異常を認める場合は、すみやかに内科医に対診または口腔外科に紹介することが重要である。
- 1)リウマトレックス®適正使用情報.Vol.25ファイザー製薬,2019:6.