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2020年06月号 「下顎歯肉の有茎性腫瘤」
3.転移性腫瘍

【処置および経過】
 生検の病理組織と加療中の胸膜中皮腫の組織標本とを比較したところ、染色態度が同一であったことから、胸膜中皮腫・上皮型の歯肉転移と診断した。CT、MRIで骨浸潤像を認めず、PET検査にて同部に高集積を認めた(図3)。全身麻酔下に下顎辺縁切除術を施行した(図4)。切除標本(図5)においても骨浸潤は認められず、軟組織転移と考えられた。術後4ヵ月目で部分床義歯を装着し、経口摂取は発症前の状態まで回復した(図6)が、術後8ヵ月目に肺病変の増大による呼吸不全で死亡した。
【胸膜中皮腫について】
 予後不良のアスベスト関連悪性疾患で、2004年から石綿の使用は禁止されているが、潜伏期間が20〜40年と長いことから、今後2030年ごろまで発生率は増加し、年間死亡者数は4,000人に達すると予測されている。40〜70歳代で診断されることが多く、男女比は5:1で男性に多い。病理組織型には上皮型、肉腫型、二相型があり、診断には免疫染色が必須である。一般に遠隔転移は少ない。
【口腔への転移性腫瘍について】
 他臓器からの口腔転移腫瘍の肉眼所見は扁平上皮がんに似ることもあるが、軟組織に転移した場合は良性腫瘍のように表面粘膜が正常で、膨張性の発育を示すことも多い。顎骨転移では浸潤性骨破壊が進行する。いずれも増殖が非常に早いのが特徴である。口腔転移を生じた悪性腫瘍患者は一般に予後不良で、大半が転移判明後1年以内に死亡するとされるが、口腔転移腫瘍は早期に増大しQOLを障害するため、緩和的治療として積極的な手術療法も有効である。

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図3 PET-CT所見。rd6部のほか、右側胸膜、腸間膜リンパ節、右側殿筋に高集積を認める

図4 術中写真と摘出標本


図5 病理組織像(H-E染色 ×200)。歯肉扁平上皮(左方)下に紡錘形腫瘍細胞塊を認める

図6 術後口腔内写真(左)と義歯装着時(右)


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