2020年05月号 「右側舌縁部のびらん」
A | 2.紅板症 |
経過:初診時に生検を行った。結果は高度異型上皮で、上皮下に顕著な炎症性細胞浸潤がみられるとのことであった。軟膏塗布や歯による擦過を回避するため、口腔内装置を装着し経過を観察した。2ヵ月経過後、あきらかな病変の拡大はないものの一部が肉芽様に変化してきたため、全摘出術を実施した。安全域を5〜7mmとし、筋層を含め切除した。創面はネオベール®とフィブリン糊で被覆した。術後病理組織検査で、一部に浸潤がんがみられた(図2)。
術後経過は良好であったが、1年後に咽頭側粘膜に新たに紅斑が出現した(図3)。再度、摘出術を実施し、その後は再発なく経過良好である。
解説:紅板症は口腔領域では稀であるが、前がん病変として白板症より注意を要する病変とされている。臨床所見では、鮮紅色を呈するビロード状表面を有し、自覚症状に乏しく硬結は触知しない。肉眼所見で均一型、白斑混在型、顆粒状(肉芽)型の3つに分類されており、肉芽型は悪性化しやすいといわれているが確かではない。発見時にはすでに病理組織学的に上皮内がんや初期浸潤がんの像を呈しているとの報告もある。がんが病理組織検査で認められた場合は、紅板症とはいわないとの狭義の解釈もあるが定かではない。
本例では、初回の生検時には異型上皮との診断であったが、全摘出術時の病理診断では一部に浸潤がんがみられた。切除辺縁の一部に異型上皮の残存がみられ、1年後の再発はこの部から発生している可能性が示唆された。このような経過から、紅板症を発症したら早期に全摘出術を行うことが望ましいと考えられる。
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図2 全摘出時の病理組織学的所見。高度の異型を示す上皮の一部に基底層が不鮮明になり、深層に増殖するがん細胞がみられる。上皮下には多数の炎症性細胞浸潤がみられる
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図3 再発時の所見。初回摘出時の病変より後方の舌根から咽頭弓にかけて紅板症がみられる
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