A | 4.スティーヴンス・ジョンソン症候群 |
スティーヴンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS、皮膚粘膜眼症候群)は、発熱や全身倦怠感を伴い、口唇・口腔、眼、外陰部などを含む全身に紅斑、びらん、水疱が多発し、表皮の壊死性障害を認める疾患である。発症機序に統一見解はないが、医薬品やウイルス感染などが契機となり、免疫学的な変化が生じた結果によると考えられている。市販薬を含めた多くの医薬品の添付文書には、重大な副作用としてSJS が記載されている。本症例における原因は、抗てんかん薬による副作用と推測されるが、検査結果から溶連菌やマイコプラズマ感染の関与も否定はできない。
SJS の発症頻度は、人口100 万人あたり年間数人で、原因となる医薬品の服用後2週間以内に発症することが多いとされている。重症化すると、多臓器不全や敗血症などを合併し、死に至る場合もある。後遺症として、皮膚粘膜移行部や粘膜の瘢痕化、また失明に至る視力障害を残すことも多く、早期診断と早期治療が重要となる。治療はステロイド薬の全身投与が第一選択であり、効果がみられない場合には免疫グロブリン製剤大量静注療法や血漿交換療法が併用される。
本症例における主訴への対応については、口唇・口腔内の清拭・保清、口に入れて吐き出す含嗽(少量のキシロカイン液を混入)を行い、喉越しのよい食品(溶けかけたアイスクリームなど)の摂取を促した。また、ステロイド薬の投与により、患児はあきらかな後遺症を残すことなく軽快し、入院10 日後に退院となった。
他の選択肢について
(1)りんご病(伝染性紅斑)は、ヒトパルボウイルスB19 によるウイルス感染症で、幼児に好発する。かぜに似た前駆症状の後、多くは両頬がりんごのように赤くなり、続いて手足あるいは躯幹に紅斑が出現する。発熱は軽度で、本疾患の特徴として、発疹出現時期を迎えた時点での他者への感染性はほとんどない。
(2)溶連菌感染症は、溶血性連鎖球菌による細菌感染症の総称で、幼児・学童を中心に夏
期以外に流行がみられる。発熱・咽頭痛を主症状とし、所属リンパ節の腫脹や苺舌、ときに手足や躯幹に発疹を認める。抗菌薬が有効な疾患ではあるが、医師の指示に従わずに服用を中断すると、リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの続発症に繋がることがあり注意が必要である。
(3)手足口病は、手足や口腔内の発疹を主症状としたコクサッキーA16 などによるウイ
ルス感染症で、幼児を中心に夏に流行がみられる。発疹はおもに手のひらや足の裏に、小さな水疱や赤い斑点として認め、水疱や紅斑が全身の広範囲に出現する場合もある。口腔粘膜や舌には、水疱やアフタが認められる。38℃を超える発熱はあまりない。