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2020年3月号 「口蓋の無痛性腫脹」
4.粘表皮がん

 粘表皮がんは、口腔顎顔面領域に発生する悪性唾液腺腫瘍で最も多く、耳下腺など大唾液腺に好発するが、小唾液腺では口蓋腺に多い。また、稀に顎骨中心性に発生することもあり、顎骨嚢胞様の画像所見を呈する。好発年齢は30〜60歳であるが、小児、思春期にも発生する。
 組織学的には粘液産生細胞、類上皮細胞、中間細胞からなり、低悪性度(高分化型)、中悪性度(中分化型)、高悪性度(低分化型)に分類され、高分化型は境界明瞭で粘液産生細胞の比率が高く嚢胞様構造を呈するが、低分化型では充実性である。低悪性度の予後は比較的良好だが、高悪性度のものは再発率、転移率も高く、予後不良である。
 粘表皮がんの臨床症状は発育が緩慢な無痛性腫脹のことが多く、良性疾患として処置されることもあり、本症例のように嚢胞様の構造を示すものではとくに注意が必要であり、疑うことが重要である。口蓋腫脹の鑑別診断のポイントとして、口蓋膿瘍は歯性感染症に起因し、周囲の歯性病巣との連続性があり内容液は膿汁である。粘液嚢胞の好発部位は下唇、口底、舌下部で、口蓋腺に発生することは稀である。また、圧迫性の骨吸収を呈することから腫瘍性病変を疑うべきである。良性唾液腺腫瘍である多形腺腫は口蓋腺より発生することが多いが、充実性で弾性硬を示すことが多い。
 粘表皮がんの治療は外科切除が第一選択であり、本症例は口蓋骨を含めた安全域で切除した。細胞異形は軽度で核分裂像は確認できず、脈管侵襲、神経周囲侵襲は認めず、低悪性度(高分化型)粘表皮がんの最終診断で、切除断端には腫瘍の露出は見られなかった。今回、口腔鼻腔瘻は一期閉鎖せず、顎補綴装置による機能回復を行い、経過観察で再発がないことを確認し、閉鎖術を検討する予定である。再発・転移のリスクは低いと考えられるが、長期の経過観察を要する。
 今回、穿刺吸引細胞診で粘表皮がんと診断されたが、唾液腺腫瘍は形態学的な多彩性、組織型の多さから、細胞診や生検、術中迅速病理検査では確定診断がつかず、全摘標本で初めてがんと診断されることも珍しくない。その場合には、追加切除や放射線治療などの術後治療を検討することがあるため、最終診断が変わる可能性があることを術前に患者へ説明しておくことが肝要である。

【参考文献】
  1. 1)立川哲彦:粘表皮がん.日本唾液腺学会(編),唾液腺腫瘍アトラス,金原出版,東京,2005:89-95.

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