A | 4.唾石症 |
頬部周囲には耳下腺や咬筋、頬筋などの筋組織、顎骨、脂肪組織などいろいろな組織が存在する。よって、頬部腫脹を認める場合には、腫瘍性疾患や炎症性疾患などさまざまな疾患を鑑別する必要がある。
耳下腺唾石症は50~60歳代の男性に多く、症状は頬部の腫脹、圧痛などで、感染を伴う場合にはステノン管開口部からの排膿を認める。唾石の位置は、約70%が導管内とされる。発生頻度は全唾石症の約1%と比較的稀な疾患であるが、頬部腫脹を認める場合にはつねに念頭におく必要がある。画像診断が有用であるが、単純X線写真では確認できない場合もあり、CTがより有用である。また、唾液の閉塞性分泌障害により、血清アミラーゼ値が上昇する。
本症例でもCTで頬部軟組織内に不透過像が存在し、ステノン管開口部から排膿を認めたことから、ステノン管内の唾石症が疑われる。治療法は唾液分泌を亢進させて自然排泄を促す方法や、内視鏡的に摘出する保存的治療法と口腔内または口腔外から切開して唾石を摘出する外科的治療法がある。口内法は深部の唾石摘出には適さないが、顔面神経損傷の可能性が低く、顔に傷を残さない利点がある。本症例も口内法でステノン管を切開して唾石を摘出し、症状の消失をみた(図4)。
頬部膿瘍は歯性感染や外傷、異物迷入、皮膚の炎症などが原因で生じ、頬部の発赤、腫脹、圧痛、開口障害などを認める。血液検査では白血球数の増加やCRP値の上昇がみられる。画像検査が有用で、造影CTでは膿瘍周囲がリング状に増強され、内部は低吸収域として認められる。本症例では左上下顎歯肉に急性炎症の症状はなく、白血球数も正常でCRP値も軽度の上昇であった。CTでも頬部やその周囲組織に膿瘍形成をみない。
頭頸部領域での筋肉内血管腫の好発部位は咬筋、僧帽筋、眼輪筋、胸鎖乳突筋などである。筋肉内血管腫の場合、造影CTでは病変の描出が不明瞭な場合もある。血管腫内に静脈石を伴うことがあるが、本症例では不透過像の存在位置が咬筋内ではない。
唾液腺症は、両側の唾液腺が無痛性に腫脹するため本症例とは異なる。原因は、ホルモンバランスの変調などを含む内分泌異常、蛋白質やビタミンの欠乏などの栄養障害、アルコール性肝炎など慢性肝機能障害などと関連すると考えられているが、詳細は不明である。治療は第一には原因疾患の治療である。
図4 術中写真