A | 3.耳下腺唾液瘻 |
処置および経過:開創したところ、血腫の他耳下腺実質や咬筋組織に著しい挫滅を認めたが、探索すると耳下腺浅葉に漿液の盛んな流出点が確認された(図3)。これにより、腺体内における耳下腺管断裂に伴う唾液瘻と診断した。口腔内の耳下腺管開口部よりブジーを挿入したところ創内へ容易に到達したが、管の断端を見出すことはできず、再建は不能と判断した。このため、医療用多用途チューブを用い、口腔内へのドレナージを図った(図4)。処置後、唾液流出は減少していき2週間で停止、腫脹などの異常を認めなかったためチューブを抜去した。その後も経過良好であった。
解説:外傷による耳下腺管の断裂および唾液瘻(あるいは唾液嚢腫)は、交通事故や刃物による切創などにより生じた報告が古くからみられる。治療法は断裂の部位によって異なり、耳下腺体外であれば口腔内瘻形成や管の吻合による再建が行われる。しかし、本例のように腺体内の損傷であれば再建は難しく、圧迫療法や薬物注入、神経遮断などにより耳下腺機能の廃絶が図られる。
本例は耳下腺管の断裂が腺体内であり、局所の挫滅もあり管の再建は断念した。圧迫療法も考えられたが、唾液の流出が盛んなため、チューブを用いた口腔内へのドレナージを緊急的に実施した。結果、自然に流出が減少、2週間で停止したが、これは挫滅に伴い腺管閉塞、腺組織の萎縮変性などが生じ、腺機能が急速に廃絶したことによると考えられた。
➀創部感染は、本例では排液の性状や臨床検査値などより総合的に否定し得る。また➁Frey症候群は、耳下腺手術や外傷後に同部の異常発汗や発赤をみるものであり、損傷された耳介側頭神経が再生する際の過誤によるとする説が有力である。この点、本例では受傷から発症までが短時間であることから否定できる。
図3 耳下腺浅葉に漿液流出点を認める(ブジーを10mmほど挿入可:矢印)
a:ブジーを用いて、創内より口腔内(耳下腺管開口部:矢印)へチューブ(4Fr:外径1.3mm)を誘導
b:流出点へチューブ挿入(矢印、吸収糸で縫合固定)
c:チューブへの唾液流出誘導(矢印)
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