A | 4.特発性血小板減少性紫斑病 |
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板に対する自己抗体の出現により、おもに脾臓において血小板の破壊が進んで、血小板が減少する自己免疫性疾患である。血小板が減少することで、さまざまな出血症状(点状出血、皮下出血、鼻血など)が現れる。
1.臨床症状
血小板減少に伴う出血傾向が認められる。出血症状は紫斑がおもな症状である。口腔内出血、鼻出血、下血、血尿、性器出血(月経過多)があり、なかには血小板が低下していても出血症状の自覚がなく、偶然健康診断などで血小板減少を指摘される場合もある。
2.検査所見
1)末梢血液
①血小板減少、 ②赤血球および白血球は数、形態ともに正常。
2)骨髄
①骨髄巨核球数は正常ないし増加、A赤芽球および顆粒球の両系統は数、形態ともに正常。
3.免疫学的検査
血小板結合性免疫グロブリンG(PAIgG)増量、ときに増量を認めないことがある。
本症例では、外傷の既往がないにもかかわらず、体幹部四肢に点状出血、紫斑および口腔内は口唇粘膜、頬粘膜、歯肉に点状出血ならびに大小さまざまな血腫を認めた。血液検査にて、血小板数は1,000/μLと著明な減少を示したが、やや貧血を認めるものの白血球数、凝固能は正常であり、骨髄検査でも骨髄巨核球数も正常であったことより、特発性血小板減少性紫斑病と診断された。
3.治療
治療としてはまず副腎皮質ステロイド療法を行う。その治療の目的は、抗血小板抗体の産生を抑制し、脾臓における血小板取り込みを抑制する。ステロイド治療で効果がなく、ステロイドの副作用が強く十分な治療が行えない場合には、血小板を壊している脾臓を摘出(脾摘)することがある(図4)。
本症例は、血小板数は1,000/μLと著明な減少があり重篤な出血の危険性があると判断し、当院血液内科に即日入院し、副腎皮質ステロイド療法や免疫グロブリン大量療法および血小板輸注を行うものの、血小板数は3,000/μL程度にしか回復せず、第5病日目に頭蓋内出血を来し不幸な転帰となった。本症例は、当科へ紹介受診となる以前にたび重なる口腔内出血で歯科医院へ通院されており、早期に本疾患を疑い専門医療機関に紹介されていれば、不幸な転帰とならなかった可能性があると考えられた。
図4 ITP診断確定後の治療の流れ
(特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド 2012年版を一部改変)
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