2019年6月号 「臼後部歯肉の腫瘤」
A | 4.歯肉線維腫 |
歯肉に生じる良性の限局性腫瘤を、総じてエプーリスという。歯肉や歯根膜などの歯周組織に由来する炎症性、反応性の増殖物で、日常臨床においてしばしば遭遇する。基本的には歯肉が局所的に過剰に増生したものであるが、発生機序についての詳細はいまだあきらかではない。
性別は女性が男性の2倍程度と女性に好発し、年齢は比較的どの年代にも発症するが、20歳から40歳代に好発するとしている報告が多い。発生部位は上顎に多い傾向を示し、とくに上顎前歯部に多いとされる。エプーリスは、病理組織学的に肉芽腫性・線維性・血管性・線維腫性・骨形成性・巨細胞性に分類されており、そのうち、線維性エプーリス、肉芽腫性エプーリスが多く、約8割を占めている。
本症例は、歯周組織との関連についてあきらかではなかったが、腫瘤の発生部位と病理組織像より、線維腫性エプーリスと考えられた。エプーリスに対する治療は腫瘤の切除であるが、適切に切除されない場合は再発の可能性がある。また、病変部の歯の抜歯については、これを保存するか否かにより術後の経過の違いを検討した報告はみられず、抜歯の有無と再発との関連性は不明である。今回は、腫瘤のみを切除し、隣接歯は抜歯せず保存的に経過観察となった。
図3 切除標本。
a:切除物の被覆粘膜は正常粘膜に比べ、やや蒼白味を帯びていた。
b:割面は白色を呈しており、内部は充実性であった
b:割面は白色を呈しており、内部は充実性であった
処置および経過:局所麻酔下にて、腫瘤の有茎基部周囲を含めて一塊として切除した。約半年を経た現在まで再発なく、経過良好である。
切除標本:標本は23×14mmの大きさで、表面はほぼ健常粘膜で覆われ、弾性軟であった。割面は白色を呈しており、内部は充実性であきらかな出血や壊死、石灰化物は認められなかった(図3)。
病理組織学的所見:膠原線維と少量の脂肪細胞が、異型に乏しい重層扁平上皮で覆われた病変であり、歯肉線維腫と診断された(図4)。