A | 2.舌癌 |
病理組織診断:舌扁平上皮癌(低分化型、浸潤様式:INFc・budding score:12)(図3)。
治療方針および経過:左側舌扁平上皮癌(cT1N0M0)の診断のもとに、群馬大学病院口腔がん治療プロトコールに従って治療を行った。組織学的に高悪性型であったため安全域を15mmに設定し、予防的頸部郭清術を施行した。T1ではあるが、本患者は舌が絶対的に小さく、舌可動部半側の欠損となったため、遊離前腕皮弁で再建した(図4)。切除断端は陰性であったが、左側頸部level IAにリンパ節転移が認められた。病理学的最終診断がpT1N1M0であった。
【解説:病態生理からみた口腔粘膜視診法】
口腔粘膜上皮のturn overは平均2週間であるため、この間に治癒傾向の機転を辿らなければ、分化勾配の破綻を考慮する。分化勾配の破綻で最も重要な状態が上皮異形成、そして、それが進展した口腔癌である。2週間経過しても治癒傾向を示さない場合は、早急に専門施設への紹介が必要である。口腔粘膜の正常色は、“薄いピンク色”である。これは、上皮下組織の血管内血液が透けて見えるためである。白色病変では、上皮が肥厚(分化亢進)することで、上皮下組織の血管が見えにくくなるために白色を呈する。赤(紅)色病変では、上皮の萎縮、上皮下組織の炎症反応が血液循環を亢進させ、血液の色が強く反映されることで赤く見える。上皮の萎縮、角化機能の抑制は分化勾配の破綻であり、さらに炎症性反応、生体防御反応の亢進などの併発を考慮すると、白色病変よりも赤(紅)色病変のほうがより病状が悪いことがうかがえる。口腔粘膜の白・紅色病変を病理組織学的に検討すると、(1)単なる上皮の肥厚性変化、(2)5年以内に癌になる上皮異形成、(3)6ヵ月以内に癌になる上皮異形成、(4)すでに上皮内癌であるものの4種類に分類される。これら4病変は視診では区別がつかず、細胞診では判断できない。必ず生検を行い、切除の必要性、経過観察や終診の可否判断が必須である。根拠のない安易な診断、とくに根拠のない経過観察で初期病変を進展病変にしてはならない。がん化する口腔白・紅色病変は約16〜20%である。
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図3 生検組織の免役組織化
学染色(ケラチン)。腫瘍細胞が索状ないしは個細胞性に筋層にまで浸潤している
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a:舌の切除範囲
(安全域15mm)
図4 手術所見
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b:腫瘍切除と前腕
皮弁移植
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c:手術終了時
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