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2019年4月号 「可動性を有する顎下腺の腫脹」
4.顎下腺がん

 唾液腺腫脹を伴う疾患は、顎下腺炎のように日常的に遭遇する疾患から、非腫瘍性の唾液腺腫脹や悪性腫瘍など非常に稀な疾患まで多彩である。そのうえ、本症例のように炎症を伴う腫瘍性病変もある。
 唾液腺の腫脹において一側、両側に分けて考えてみると、IgG4関連ミクリッツ病・シェーグレン症候群など非腫瘍性唾液腺腫脹では両側性の場合が多く、一側性のものは唾石症など比較的診断が容易であるため除外できる。顎下腺と同時に両側耳下腺を伴っている場合は、唾液腺症、悪性リンパ腫、ミクリッツ病、流行性耳下腺炎を念頭において診療にあたることが必要である。唾石症は、食事摂取時の唾仙痛や唾液腺の腫脹などの現病歴に加え、双手診で確認する。X線写真所見では、結核などによるリンパ節の石灰化なども顎下腺部に石灰化像を示すことがあるので、鑑別が必要である。
 唾液腺腫瘍は頭頸部腫瘍の約5%を占め、全腫瘍の約1%であると報告されている。部位別頻度としては耳下腺、顎下腺、舌下腺の順だが、悪性腫瘍の割合は逆に、舌下腺、顎下腺、耳下腺の順になる。顎下腺腫瘍では、良性腫瘍が45%で、悪性腫瘍が55%である。
 臨床所見は、初期の場合は良悪性にかかわらず顎下腺体の可動性腫瘤として発症するため、癒着の有無による良悪性の鑑別が困難である。表面の性状は、口腔領域の悪性腫瘍の約90%を占める扁平上皮がんが白斑や潰瘍など視診にて比較的判りやすく、病理組織学検査も施行しやすいのとは対照的である。そして、リンパ節の腫脹も、炎症性反応にて腫大したのか、転移性リンパ節なのかの鑑別も難渋することが多い。
 本症例でも、腫瘍の可動性を認めたうえ、腫脹の反復という現病歴を踏まえると、顎下腺がんより慢性唾液腺炎や良性腫瘍など他の疾患を疑う可能性は誰にでもあり得ると思われる。本症例から伝えたいこととしては、顎下腺疾患は、消炎後から診断が始まるくらいの心持ちで、絶えず悪性腫瘍の可能性を念頭において診療にあたることが必要である。最終診断は病理組織学検査に委ねられる例も多く、本症例でも病理組織学検査が決め手となり最終診断に至った。一般開業医では、顎下腺の病理組織学検査や穿刺は難しいと思われる。顎下腺炎など炎症性疾患と診断した際は、必ず消炎後の経過観察を行い、治癒したことを確認していただきたい。そして、治癒しない際は、専門医療機関に紹介することをお奨めする。


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