2019年3月号 「女児に認められた上顎前歯部の歯肉腫脹」
A | 3.歯肉線維腫症 |
本症例は、歯肉の肥厚はみられるものの炎症所見が軽度であり、病理所見では上皮突起の伸長や歯肉の線維性増殖を示していた。歯肉の形態は、歯間乳頭部に限らず全体的にび漫性に肥厚しており、抗けいれん薬、降圧薬(カルシウム拮抗薬)、免疫抑制薬の服用歴もないことから「歯肉線維腫症」と診断した。歯肉線維腫症には、遺伝子が関与する遺伝性歯肉線維腫症と関与しない特発性歯肉線維腫症とがあり、前者はおもに常染色体優性遺伝であると報告されている。特発性歯肉線維腫症は全顎型と限局型があるが、遺伝性歯肉線維腫症はほとんどが全顎型であり、症状も重篤である。
本症例の場合、家族(父母、妹)に同様の症状がないことから「特発性」で、上顎前歯部に顕著に発症した「限局型」と診断した。病変の発症には性差は認められず、好発年齢は若年者で、乳歯や永久歯の萌出時期から思春期にかけて発症することが多いといわれている。歯肉の病理組織学的特徴としては、上皮突起の伸長や線維芽細胞の乏しい緻密なコラーゲン線維の増殖、軽度の炎症性細胞浸潤が挙げられる。発症機序は研究段階であり、あきらかなメカニズムは解明されていない。治療は、歯周炎を併発していない場合には歯肉肥厚部の歯肉切除術を行い、定期的な口腔衛生管理で再発予防を図るようになる。
本症例も、歯肉肥厚が顕著な上顎前歯部に対して、メスや炭酸ガスレーザーを使用して歯肉切除を行った(図4)。しかし、歯肉切除後も再発の可能性があるため、切除後は、月1回程度の間隔で口腔清掃指導とPMTCを行い、再発予防に努めている(図5)。
- )Ramnarayan BK, Sowmya K, Rema J: Management of idiopathic gingival fibromatosis: report of a case of idiopathic gingival fibromatosis: report of a case and literature review, Pediatr Dent, 33(5): 431-436, 2011.
- )永田俊彦:特殊な歯周病の治療.臨床歯周病学 第2版,医歯薬出版,東京,2013:352-356.
- )小林奈未子,藤田春子,菊池恭子,石川雅章:歯肉線維腫症2症例の長期経過観察.小児歯科学雑誌,52(1):103-109,2014.
図4 上顎前歯部の歯肉切除術
図5 定期検診時の口腔内写真