2018年10月号「顎下部の腫瘤」
3.類表皮嚢胞 |
BP製剤の長期投与と重度歯周炎歯の抜歯、そしてデノスマブを投与した後に顎骨骨髄炎、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(以下、ARONJ)の炎症が顎下部へと波及した。このことが歯科医院受診の契機となったが、抗菌薬により消炎された結果、腫瘤(嚢胞)が明瞭化した症例である。顎下腺に異常は認められなかった。
類表皮嚢胞は、先天性では胎生期の外胚葉の迷入、後天性では外傷や炎症あるいは手術などによる上皮の嵌入に由来するとされており、顎口腔領域では口底正中部に発生頻度が高い。本例は高齢者の顎下部に認められた稀な症例で、これまで自覚症状はなく、嚢胞の発生時期や原因は不明である。同部の外傷や手術の既往はないが、ARONJなどの影響を受けた可能性はあると考えられる。
なお、ARONJ予防のための骨吸収抑制薬の休薬については、顎骨内に感染巣を長期に残存させることや、デノスマブによる骨粗鬆症のオーバーシュート(リバウンド)のリスクなどが問題となっている。ARONJポジションペーパー2016でも、抜歯などの際は徹底した感染源の除去と感染予防を行うことに加え、医師と歯科医師が緊密な連携をとることが重要とされている。
処置および経過(2) : 全身麻酔下にて右顎下部よりアプローチし、周囲結合組織から腫瘤を鈍的に剥離摘出した(図4、5)。術後は再発を認めず、経過良好である。
病理組織学所見 : 嚢胞は皮膚付属器をもたない重層扁平上皮で裏装され、類表皮嚢胞の診断であった。また、嚢胞腔内には扁平上皮細胞や好中球がみられた。嚢胞壁には中等度の炎症所見がみられ、形成された嚢胞が先述の炎症の影響を受けた可能性があると考えられた(図6)。
図4 術中写真(右顎下部)。広頸筋の内側に、直径2.1pの
嚢胞を認めた
図5 摘出標本。嚢胞の内容物は、黄褐色の粥状を呈していた
図6 病理組織像。嚢胞は、皮膚付属器をもたない重層扁平上皮で裏装されていた(呉共済病院 病理診断科 佐々木なおみ先生のご厚意による)
<<一覧へ戻る