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2018年10月号 「頬粘膜からの出血」
2.薬剤による出血傾向

 ミコナゾール(フロリード®ゲルなど)は口腔や食道カンジダ症に対して用いられ、口腔内に塗布される製剤であるが、ワルファリンとの併用により重篤な副作用事例が多く報告されている。2013年4月から2016年7月に両薬剤の相互作用による出血関連事象は41例、うち死亡例は1例報告されている(医薬品・医療機器安全情報No.338)。ミコナゾールは嚥下されたものが吸収され、肝臓の代謝酵素を強く阻害するためワルファリンの血中濃度が上昇し、PT-INRが大幅に上昇する。また、ミコナゾールの服用中止後もワルファリンの作用が遷延し、数週間から数ヵ月程度続くため、ワルファリン内服量の調節が困難になることから、2016年10月からミコナゾールの添付文書で「併用禁忌」に変更となった。ワルファリンのみならず、他の抗凝固薬であるリバーロキサバン(イグザレルト®)も併用禁忌で注意が必要である。口腔・食道カンジダ症治療に対するミコナゾールの代替薬としてアムホテリシンBシロップ(ファンギゾン®シロップ)が挙げられる。
処置および経過:近歯科医院の診断により、ミコナゾールを3週間ほど使用していた。初診時、両側頬粘膜からの出血を認め、舌および全身皮膚の紫斑から凝固能異常を疑い、血液検査を施行した。PT-INRは10.0以上と検査感度上限を振り切るような状態であったため、ミコナゾールとワルファリンの薬剤相互作用による出血傾向と診断し、即日入院管理とした。循環器内科に対診を行い、ワルファリンの休薬、メナテトレノン(ケイツーN®静注)10mg静脈内投与し、翌日にはPT-INRは1.5に低下した。その後は、貧血や下血など全身症状はなく循環器内科に転科し、入院8日目にPT-INR1.9とコントロール域になったため退院した。
 ワルファリン服用患者で、口腔粘膜からの出血や鼻出血、全身皮膚の紫斑などを認める場合は凝固能の異常が懸念されるため、PT-INRの確認を行い、ワルファリンの中止およびビタミンK投与によるリバースの検討が必要である。また、PT-INRが低下してもミコナゾールの影響は持続するため、ワルファリンの至適コントロール域になるまでモニタリングを頻回に行い、ワルファリン量を調節する必要がある。本例では、口腔粘膜の出血、四肢の紫斑からあきらかに凝固能の異常を示唆する所見があり、ミコナゾールとワルファリンを併用していることから、相互作用によるPT-INR過延長と判断し、循環器内科に対診して大事には至らなった。
 高齢者の口腔カンジダ症に対して抗真菌薬を投与する頻度は多いと思われるが、基礎疾患の有無および抗凝固薬など常用薬の確認を行い、薬剤の相互作用を念頭におくことが重要である。とくにワルファリン内服中である場合にはミコナゾールとの併用禁忌であるため、地域の病院歯科や大学病院に治療依頼することが望ましい。



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