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2018年6月号「上唇の潰瘍性病変」
3.口腔梅毒

 梅毒は世界中に広く分布している疾患だが、1943年にペニシリンによる治療が奏効して以来、本薬の汎用により発生は激減した。わが国では1999〜2012年には年間500〜900例で推移していたが、2010年ごろより増加傾向に転じており、国立感染症研究所の報告では2013年には1,228例、2014年には1,671例と報告されている。
経過:本症例では、PET/CTにて全身性のリンパ節病変とFDG集積が認められたため、悪性リンパ腫も念頭に、当院血液内科へ対診した。感染症スクリーニング目的に行った採血にて、TPHA 1,745倍、RPR 50.2倍と陽性であり、梅毒の診断を得た。HBV・HCV・HIVはいずれも陰性であった。また、同日左上唇より生検を行ったが、形質細胞を主体とする炎症性細胞の浸潤のみで、梅毒スピロヘータの確認には至らなかった。追加の問診にて、患者は同性愛者であり、以前より同性との性交渉があり、オーラルセックスの既往があることも判明した。
 以上の結果より、梅毒第一期と診断し、サワシリン1,000mg/day投与を開始したところ、開始後28日目には左上唇の腫瘤は消失し、頸部部の腫脹リンパ節も縮小がみられた。
口腔梅毒の特徴・原因: 口腔梅毒の特徴・原因:梅毒は細菌感染症であり、梅毒トレポネーマが病原体である。第一の感染経路は性行為であるが、感染した妊婦の胎盤を通じて胎児に感染した場合は、先天梅毒を生じる原因となる。
 梅毒トレポネーマが感染すると、3〜6週間程度の潜伏期の後に、感染箇所に初期硬結や硬性下疳がみられ(第I期)、その後数週間〜数ヵ月を経過すると梅毒トレポネーマが血行性に全身へ移行し、皮膚や粘膜に発疹がみられるようになる(第II期)。感染後数年〜数十年経過すると、ゴム腫、心血管症状、神経症状などが出現する場合があるが、その間に症状が消える無症候期があり、これが診断・治療の遅れに繋がることがある。
 梅毒で口腔内に初発症状を呈する症例は1%程度とされているが、海外渡航による感染機会の増加・性交形態の変化・性風俗業の拡大などにより梅毒患者は近年増加傾向にあり、歯科医師が最初に遭遇する機会も高まっていると考えられる。疾患に対する再認識が必要であり、疑わしい場合には適切に診断・対応することが重要である。

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