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2018年4月号 「症状がない下顎前歯部のX線透過像」」
2.類(表)皮嚢胞

 類(表)皮嚢胞は、一般に胎生期の外胚葉組織の迷入あるいは後天的な外傷、手術などによる上皮片の迷入により発生するといわれている。顎口腔領域では口底に好発し、顎骨内での発生は稀である。顎骨内に発生した場合、X線像では、白線に囲まれた境界明瞭な単房性透過像として描出されることが多く、歯原性腫瘍/良性腫瘍をはじめとする他の顎骨内疾患との鑑別は容易ではない。
 本例のごとく自覚症状がないX線透過像の診断を行う際、臨床所見では隣在歯の生活反応、動揺、傾斜の有無ならびに歯槽部の腫脹の有無を把握する必要がある。画像診断では病巣内の埋伏歯の有無、隣在歯の歯根膜腔、歯槽硬線との関連、歯根吸収の有無の診断が必須である。本例では、隣接する歯は生活歯で、透過像内に埋伏歯を含まないことより、歯根嚢胞、含歯性嚢胞は否定的である。
 歯原性腫瘍として頻度が高いエナメル上皮腫は増大とともに頬舌方向に、一方、歯原性角化嚢胞においては近遠心方向に発育する傾向がある。さらに、エナメル上皮腫においては歯根吸収を認めることが多い。本例では、X線CTにて頬舌的な骨膨隆、歯根吸収ともに認められず、歯原性嚢胞/腫瘍としては歯原性角化嚢胞が疑われる。
 非歯原性病変としては、その発生頻度は低いものの、上皮裏層を欠いた偽嚢胞である単純性骨嚢胞に加え、脂肪腫、神経鞘腫など非上皮性良性腫瘍、類(表)皮嚢胞などの非歯原性嚢胞、顎骨中心性がんなどが鑑別診断として挙げられる。
 単純性骨嚢胞は比較的若年者に生じ、典型例では周囲の歯は生活歯で、歯の移動、歯軸傾斜など周囲組織への影響はほとんど認められない。画像では歯根吸収を認めず、歯と歯の間に入り込む透過像、いわゆるホタテ貝状輪郭を呈し、おとなしい所見が特徴である。本例においては隣接歯の傾斜が見られた。
 顎骨中心性がんは50?60歳代に好発するが、比較的若年者にも発生することがある。その由来は歯原性残遺上皮または歯原性嚢胞とされているが、若年者では嚢胞由来の腫瘍は極めて稀で、パノラマX線所見、CT所見を併せて考え、その可能性は極めて低い。
 以上より本例は、歯原性角化嚢胞、非歯原性良性腫瘍または嚢胞性疾患の可能性が高いと考えられる。
 病変内部の構造を把握するには、MRIが有用である。嚢胞性疾患では、一般的にT1強調像にて低信号、T2強調像では高信号で、内部性状は均一であることが多い。信号強度は内容液の蛋白含有量、粘稠度、血球成分の量などによって変化する。呈示症例における内部性状の不均一性は、脂肪、コレステリン、剥離上皮などの存在が信号強度に反映されたものであると考える。
 本例では、全身麻酔下にて摘出術を行った。病理組織学的には類(表)皮嚢胞と診断された。

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