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2017年10月号 口底の腫瘤
4.口底顆粒細胞腫

 本症例では、その発生部位および視診上、画像所見上からは舌下腺由来の腫瘍などが疑われた。舌下腺に発生する腫瘍の約70%が悪性とされていることから、悪性腫瘍の可能性も念頭に置いて全切除前に生検を行ったところ、顆粒細胞腫との診断を得た。
 顆粒細胞腫は、皮膚や口腔などの軟組織に発生する比較的稀な良性腫瘍である。口腔での発生頻度は、舌73%、頬粘膜8%、歯肉5%、口底4%、硬口蓋1%1) との報告もあり、口底に発症した本症例は、顆粒細胞腫のなかでも稀な1例といえる。顆粒細胞腫は、臨床的には線維腫や神経鞘腫などの良性腫瘍と診断されることが多く、特異的な臨床所見に乏しいため、臨床的に顆粒細胞腫と診断するのは容易でない2)とされている。
 本腫瘍の病理組織学的特徴として、( 1 )周囲組織との間に被膜を有さないこと(92.7〜100%)、( 2 )被膜上皮に偽上皮腫様過形成を認めること(50.0〜55.9%)などが挙げられる。本症例では、上記( 1 )に合致した所見が得られた(図4)。また、これらの特徴により、本腫瘍を悪性腫瘍と誤診する可能性も指摘されており、注意を要する。
 免疫組織化学的検査では、本腫瘍の発生由来として有力なSchwann細胞に特異性の高いS-100蛋白やvimentin、p75、NKI/C3などが有用なマーカーとして挙げられている。また、本腫瘍はPAS染色にて、大部分の腫瘍細胞質内顆粒がジアスターゼ抵抗性のPAS陽性を示すとされている。本症例でも、免疫組織化学的にS-100蛋白に陽性を(図5)、actin(muscle)に陰性を、PAS染色で陽性を示したことで、 顆粒細胞腫との確定診断に至った。
 治療方法は、一般的に切除が選択されることが多い。本腫瘍は被膜を形成することがほとんどなく、 腫瘍細胞が周囲の結合組織や筋組織内に浸潤することが多いことから、周囲健常組織を含めた切除が推奨されている。本症例でも触診にて腫瘍から数mmのマージンを取り、健常組織を含めての切除とした。術後の経過は良好であるが、切除後の再発や悪性転化の報告もわずかながらあり、長期の経過観察が必要と考えられる。

 
図1 術中所見。切除後
図4 病理組織学的所見
(H-E染色)
図2 切除後の検体
図5 病理組織学的所見
(免疫組織化学染色、S-100蛋白)

   

【参考文献】

1)池田順行,星名秀行,他:舌顆粒細胞腫の1例と本邦報告97例の臨床病理学的解析.新潟歯学会誌,36:49-53,2006.
2)富永寛文,原田浩之,他:口腔に発生した顆粒細胞腫12例の臨床病理学的検討.日口科誌,58:97-102,2009.


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