A | 3.アフタ性口内炎 |
アフタ性口内炎は、アフタを伴う口内炎である。アフタは、周囲に紅暈を有する有痛性の小潰瘍と定義されている。通常、径が5mm程度の類円形の潰瘍が出現して、1〜2週間で瘢痕を残さずに治癒する病変で、接触痛のため摂食に支障を来す。これを繰り返す場合、再発性アフタと呼ばれる。アフタはその臨床像から、最も頻度の高い小アフタ型、径が10mm以上で硬結を伴い、治癒に1ヵ月を有することもある大アフタ型、単純ヘルペス性歯肉口内炎の病態に近似し、より小さな潰瘍が群発する疱疹状潰瘍型に分けられる(表1)。
アフタ性口内炎の鑑別疾患として、ヘルペス性歯肉口内炎、ヘルパンギーナ、薬物性口内炎、口腔カンジダ症、天疱瘡などがある。皮膚では、水疱を形成する疾患でも角層が薄い口腔粘膜では潰瘍として現れることが多い。
本症例は、発症当初に受診した医療機関でヘルパンギーナを疑われた。これはコクサッキーウイルスA群、エンテロウイルスによって引き起こされ、おもに小児で流行するウイルス性疾患で、口峡部に小潰瘍が集中する。同様のウイルスによる感染で手足口病を発症するが、この場合、口・手・足に病変を認める。ヘルペス性歯肉口内炎は、HSVの1型(HSV-1)による感染症で、多くは初感染時の病変として出現する。再発性HSV-1口腔病変の場合、免疫抑制状態でなければ再発病変が広範に及ぶことはない。アフタが角化の少ない口唇、舌下面、軟口蓋などに好発するのに対して、ヘルペス性歯肉口内炎では、角化程度に左右されず、どの部位でも発現する。受診時に行ったウイルス検査では、HSVのCF抗体価は<4で検出されておらず、初感染や再発の可能性は低い。薬物性口内炎では、抗菌薬、解熱消炎鎮痛薬、抗てんかん薬などの原因薬があり、口唇、口腔粘膜は広範にただれた状態となる。疑われる薬剤の中止、アレルギーテストが必要となる。
本症例では、ウイルス感染の可能性が低く、原因となる新規薬物投与もなく、病変が1週間程度で再発したことから、高齢者で頻度が高いアフタ性口内炎の疱疹状潰瘍型と診断した。治療では、摂食障害に対して経腸栄養剤、リドカイン塩酸塩ビスカス希釈液による含嗽、ミノサイクリン、イルソグラジンマレイン酸塩が有効であった。
表1 アフタの臨床像による型分類
型 | 潰瘍の大きさ | 個数 | 治癒期間 | 瘢痕形成 | 型別頻度 |
---|---|---|---|---|---|
小アフタ | <10mm 径5mm程度が多い、浅い潰瘍 |
1〜5 | 7〜14日 | なし | 75〜90% |
大アフタ | >10mm 深い潰瘍 |
1〜2 | 1ヵ月以上 | あり | 10〜15% |
疱疹状潰瘍 | 径1〜2mm 浅い潰瘍 |
多発性 | 7〜14日 | なし | 5〜10% |
<<一覧へ戻る