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2016年12月号 歯肉からの異常な出血
1.播種性血管内凝固症候群

  歯科診療中に、全身疾患に関連する異常歯肉出血や抜歯後出血に遭遇することがあります。歯肉の炎症など原因疾患があきらかな場合には診断は比較的容易ですが、口腔内に原因性が低く、全身基礎疾患が不明である場合は、診断に苦慮することがあります。全身疾患に関連する口腔内の出血として、突発性血小板減少性紫斑病や白血病、血友病、再生不良性貧血、ビタミンK欠乏症、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coaguration:DIC)などが挙げられます。

  本症例においては、歯肉からサラサラとした出血が見られ、ガーゼ圧迫では止血することが困難で、唾液に混じってすぐに口中が赤くなってしまうほどの異常出血を認めました。また、全身の皮膚に点状出血がみられたことから、全身疾患に関連する出血性素因を疑い、ただちに血液検査を行いました。

  検査結果から、血小板とフィブリノゲンの減少とFDPの著明な上昇を認めたため、DICと診断しました。DICとは、固形がんや白血病、血管病変、敗血症などの種々の基礎疾患を有し、凝固系亢進による血栓傾向と、それに伴う二次的線溶系亢進による出血傾向を来した病態をいいます。厚労省の診断基準では、(1)基礎疾患の有無、(2)出血症状・臓器症状の有無、(3)血小板数の低下、(4)FDP、(5)フィブリノゲン、(6)PTの各項目についてスコアリングし、補助診断基準のD-dimer、PIC、TAT、SFを用いて診断します。治療は、基礎疾患の治療、抗凝固療法、補充療法、および全身管理が基本となります。なかでも基礎疾患への治療が最も重要で、基礎疾患が制御されれば、DICは軽快あるいは終息するといわれています。

  本症例では、医科へDICの診療依頼をするとともに、上下顎の止血シーネを作製し(図4)、サージカルパックとともに装着して歯肉出血のコントロールを行いました。しかしながら、CEA 16.9ng/mL、Ca19-9 309U/mLと消化器系がんの腫瘍マーカーの異常が認められたものの、認知症のために検査が進まず、結果的に原因疾患への適切な治療が行えなかったこともあって、患者は14日後に亡くなりました。そしてその後の剖検の結果、上行結腸に今回のDICの原因と思われる浸潤したがんが認められました。

  DICでは、口腔内出血が初発症状となることがあります。「この血は止まらないのではないか」と思わされるほどの異常出血では、衣服をまくり皮膚の出血斑を確認することが重要です。そして、DICなどの全身疾患が疑われたならば、ただちに医科との連携と、すみやかな原疾患の追求が望まれます。

図4 止血用シーネの印象採得。止血シーネを作製し、歯周パックと合わせて装着して、歯肉出血のコントロールを行った
図4 止血用シーネの印象採得。止血シーネを作製し、
歯周パックと合わせて装着して、歯肉出血のコントロールを行った

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