高血圧症や糖尿病患者へ麻酔を奏効させる方法
●高血圧症、糖尿病などの患者にキシロカインは禁忌ですが、シタネストだと効き目が悪く、患者さんに苦痛を与えてしまいます。何かよい方法はありますか?
──長崎県・O歯科医院
歯科用キシロカイン®カートリッジ(リドカイン)の添付文書には、禁忌として、「本剤の成分又はアミド型局所麻酔薬に対し過敏症の既往歴のある患者」となっており、原則禁忌として、「高血圧、動脈硬化、心不全、甲状腺機能亢進、糖尿病のある患者及び血管攣縮の既往のある患者」となっています1)。
添付文書記載要領改正により、「原則禁忌」「慎重投与」項目が廃止となり、「特定の背景を有する患者に関する注意」の項目に移行することが検討されています2)。患者ごとの既往などの全身状態の把握を十分に行うことにより、リドカインが使用可能となるため、その頻度はいままで以上に高まります。しかし、副作用発現や過敏症などの患者の場合には、シタネスト-オクタプレシン®カートリッジ(プロピトカイン)や、血管収縮薬無添加のスキャンドネスト®カートリッジ3%(メピバカイン)などが選択肢に挙げられます。
どの薬剤選択を行っても、炎症の急性期には、局所麻酔が奏効困難となる場合があるため、十分な患者説明が必要です。一般的な治療の場合、プロピトカインでも下記の準備を行うことにより、鎮痛効果が得られます。骨が薄く、多孔性の部位(上顎前歯・臼歯部/下顎前歯部)については、待機時間を十分にとることにより、麻酔効果が期待できます3)ので、皮質骨が緻密で厚く、骨小孔の少ない下顎臼歯部への対応法を説明します。
1.表面麻酔
エアシリンジにて乾燥させた歯槽粘膜に、表面麻酔薬を塗布したロールワッテやガーゼを3分間程度貼付してください。麻酔針刺入の疼痛が軽減できます4)。
2.歯肉頬移行部への麻酔
根尖部の約1/3程度の歯肉頬移行部に注射針を刺入させ、ゆっくりと薬液注入を行います。プロピトカインの場合、十分な奏効時間(10~15分)を確保することが肝要です。
3.歯牙周囲への麻酔
1)歯間乳頭部への浸潤麻酔
歯間乳頭部(歯槽中隔)は骨小孔が比較的多く、骨内に薬液が浸潤しやすいですが、角化歯肉のため、刺入時の疼痛、血流障害からの潰瘍出現などの可能性があります。
2)歯根膜麻酔
歯周ポケットから直接歯根膜腔へ注入する方法であり、少量の麻酔薬で、迅速な麻酔効果が期待できます。1歯根あたり0.2mLが基準です5)。
4.下顎孔伝達麻酔
下顎臼歯部の抜歯や抜髄などに有効な方法です。一般的な口内・直達法では、患者を開口させ、内斜線のすぐ内側で下顎臼歯咬合面の1横指上を刺入点として、反対側の犬歯〜小臼歯方向から刺入させ、15mm程度の部位で吸引試験後、薬液を注入します。臼歯部頬側歯肉の麻酔効果は得られませんので、頬側に浸潤麻酔が必要です。
加えて、下顎臼後三角部に薬液を追加すると、後方にある小骨孔からの麻酔効果も期待できます6)。
【参考文献】
添付文書記載要領改正により、「原則禁忌」「慎重投与」項目が廃止となり、「特定の背景を有する患者に関する注意」の項目に移行することが検討されています2)。患者ごとの既往などの全身状態の把握を十分に行うことにより、リドカインが使用可能となるため、その頻度はいままで以上に高まります。しかし、副作用発現や過敏症などの患者の場合には、シタネスト-オクタプレシン®カートリッジ(プロピトカイン)や、血管収縮薬無添加のスキャンドネスト®カートリッジ3%(メピバカイン)などが選択肢に挙げられます。
どの薬剤選択を行っても、炎症の急性期には、局所麻酔が奏効困難となる場合があるため、十分な患者説明が必要です。一般的な治療の場合、プロピトカインでも下記の準備を行うことにより、鎮痛効果が得られます。骨が薄く、多孔性の部位(上顎前歯・臼歯部/下顎前歯部)については、待機時間を十分にとることにより、麻酔効果が期待できます3)ので、皮質骨が緻密で厚く、骨小孔の少ない下顎臼歯部への対応法を説明します。
1.表面麻酔
エアシリンジにて乾燥させた歯槽粘膜に、表面麻酔薬を塗布したロールワッテやガーゼを3分間程度貼付してください。麻酔針刺入の疼痛が軽減できます4)。
2.歯肉頬移行部への麻酔
根尖部の約1/3程度の歯肉頬移行部に注射針を刺入させ、ゆっくりと薬液注入を行います。プロピトカインの場合、十分な奏効時間(10~15分)を確保することが肝要です。
3.歯牙周囲への麻酔
1)歯間乳頭部への浸潤麻酔
歯間乳頭部(歯槽中隔)は骨小孔が比較的多く、骨内に薬液が浸潤しやすいですが、角化歯肉のため、刺入時の疼痛、血流障害からの潰瘍出現などの可能性があります。
2)歯根膜麻酔
歯周ポケットから直接歯根膜腔へ注入する方法であり、少量の麻酔薬で、迅速な麻酔効果が期待できます。1歯根あたり0.2mLが基準です5)。
4.下顎孔伝達麻酔
下顎臼歯部の抜歯や抜髄などに有効な方法です。一般的な口内・直達法では、患者を開口させ、内斜線のすぐ内側で下顎臼歯咬合面の1横指上を刺入点として、反対側の犬歯〜小臼歯方向から刺入させ、15mm程度の部位で吸引試験後、薬液を注入します。臼歯部頬側歯肉の麻酔効果は得られませんので、頬側に浸潤麻酔が必要です。
加えて、下顎臼後三角部に薬液を追加すると、後方にある小骨孔からの麻酔効果も期待できます6)。
- 1)局所麻酔剤「歯科用キシロカイン®カートリッジ」添付文書 2017年1月改訂(第13版).デンツプライシロナ株式会社,東京.
- 2)添付文書記載要領の改正に伴う原則禁忌の取扱いについて 平成30年度第12回安全対策調査会 資料1-1.医療安全対策課,平成31年3月11日.
- 3)一戸達也(編):歯科における安全で確実な局所麻酔.第一歯科出版,東京,2013.
- 4)砂田勝久:聞くとよく効く麻酔の話.障歯誌,38: 1-3,2017.
- 5)久木 留,他:局所麻酔を効かせるためには?―浸潤麻酔のコツとポイント―.歯科学報,117(4),352-354,2017.
- 6)上条雍彦(著):口腔解剖学 第3版.アナトーム社,東京,1997.
髙後友之
●恵佑会札幌病院 歯科口腔外科・歯科