神経障害性疼痛とアロディニアなどの異常感覚

 痛みを原因により分類すると、神経末端の侵害受容器を介する痛み(侵害受容性疼痛)と、介さない痛みに大別される。侵害受容器とは、痛みを起こす刺激(侵害刺激)を感じる受容器である。
痛みを生じる刺激、侵害刺激には、熱刺激・機械刺激・化学刺激などがあり、それぞれに受容器がある。たとえば、2021年のノーベル生理学・医学賞は、温度と触覚の受容体の発見に授与されたように、とくに熱刺激を感じるTRPチャネルは痛みに深く関連する。
侵害受容性疼痛は身体を守るための警告信号で、「つねったときの痛み」・「熱いものに触ったときの痛み」などの痛みや、炎症物質による痛み(炎症性痛)も含まれる。
侵害受容器を介さない痛みとしては、神経障害に起因する痛み(神経障害性疼痛)がある。神経障害による痛みは、帯状疱疹後神経痛、抜歯、インプラントによる下歯槽神経障害などが代表的に疾患で、「体性感覚神経系に影響する病変あるいは、疾病による直接的な結果としての痛み」と定義される。
侵害受容性疼痛は生体侵襲を警告するという合目的であるのに対して、神経障害性疼痛は体性感覚神経系の機能障害でしかなく、患者に苦痛を与えるだけである。
神経障害性疼痛の特徴は、電気が走るような痛み(電撃痛)、“ジリジリ”、“ピリピリ”、“ヒリヒリ”など、日常生活では感じることのない持続性の痛みに加えて、アロディニア、ジセステジア、パレステジアなどの異常感覚を生じることである。
なお、「アロディニア(allodynia)」とは、通常では痛みとして認識されない程度(非侵害性刺激)の接触や軽微な圧迫、寒冷などの刺激が、痛みとして認識されてしまう異常感覚の1つである。また、「ジセステジア(dysesthesia)」とは、自発性の、あるいは、誘発されて生じる不快な異常感覚(嫌な感じ)で、「パレシテジア(paresthesia)」とは不快を伴わない異常感覚(変な感じ)のことを指す。加えて、「痛覚過敏(hyperalgesia)」という、痛み反応が亢進し、痛み刺激に対して通常以上の痛みが生じる状態を伴うこともある。
口腔内に神経障害性疼痛が生じると、持続性の“ジリジリ”、“ピリピリ”、“ヒリヒリ”などの痛みがあり、患部に歯ブラシが軽く触れただけで嫌な感じがしたり、痛みが生じたりする。また、冷たいもの、熱いお茶、コーヒーがしみたり、唐辛子の辛さが強く感じられたりもする。
神経障害性疼痛の診査は、これらの異常感覚の有無を確認する。具体的には丸い先端の器具で歯肉粘膜をさすり、そして、「変な感じ、嫌な感じとか痛みとかありませんか」と尋ね、左右の差を確認する。次に、爪楊枝で歯肉粘膜をチクチク刺激し、極端な痛みが出ないかどうかを確かめる。これで左右差があり、繰り返しの診査でも同じ結果が出た場合には、神経障害性疼痛の可能性が高まる。

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