徹底追及どっちがどっち? スタンダードエッジワイズ法VSストレートワイヤーエッジワイズ法|デンタルダイヤモンド 1998年1月号

スタンダードエッジワイズ法

ストレートワイヤーエッジワイズ法

日本大学松戸歯学部 矯正学教室
青島 攻

林 文

追求1 比べてみよう、どっちがどっち?

スタンダードエッジワイズ法もストレートワイヤーエッジワイズ法も、ともにE.H.Angleの流れを継ぐエッジワイズ法であるが、歴史的にみるとスタンダードエッジワイズ法のほうが古い(図❶❷)。しかしながら、もとをただせばストレートワイヤーエッジワイズ法は、スタンダードエッジワイズ法から進歩、改良された矯正治療法である。人が、サルから原始人、原始人から現代人と進歩してきたのと同じである。そういう意味では、この流れは、スタンダードエッジワイズ法からアンギュレーテッドエッジワイズ法、アンギュレーテッドエッジワイズ法からストレートワイヤーエッジワイズ法と変わってきたといえる。したがって、テクニック的にみてストレートワイヤーエッジワイズ法のほうが新しいテクニックといえる(図❸)。しかし、改善されたとはいえ、いまだにスタンダードエッジワイズ法にこだわっている専門医がいたり、大学の矯正科があるのは興味深い。

図❶ スタンダードエッジワイズ法

図❷ ストレートワイヤーエッジワイズ法

図❸ スタンダードエッジワイズ法からアンギュレーテッドエッジワイズ法、アンギュレーテッドエッジワイズ法からストレートワイヤーエッジワイズ法へとテクニックが改良されていった

追求2 どっちにしても、どんなもの?

いずれにしても、治療後は同じ結果になるのだが、それぞれには違う治療のパターンがある。スタンダードエッジワイズ法では歯を唇(頬)舌的および近遠心的に移動させたり、傾斜させたりするのに、ループをワイヤーに屈曲したり、トルクというひねりを角ワイヤーに入れたり、セカンドオーダーベンドという階段状のベンディングを屈曲したりしなければならない。これに対し、ストレートワイヤーエッジワイズ法では、形状記憶合金という屈曲させることが不可能なワイヤーを使用して治療する(図❹)。したがって、たとえワイヤーを屈曲したとしても、形状記憶合金であるからすぐにストレート(平坦)のワイヤーに戻ってしまう。しかし、治療後はスタンダードエッジワイズ法で行うのと同じ結果になるのであるから、ワイヤーが屈曲できなくても同じ効果をもたらす何らかの工夫がなされていなければならない。 実は、ストレートワイヤーエッジワイズ法は、ワイヤーを屈曲するかわりにブラケットのスロット(溝)の深さ(距離)を変えたり、スロットに角度を入れることで、ワイヤーを屈曲したのと同じ効果を出せるように工夫したものである(図❺)。なぜ、このようにしたかというと、今までのスタンダードエッジワイズ法では、たとえば角ワイヤーにトルクというひねりを入れる場合、かなり難しいテクニックが必要とされ、また、今まで使用したワイヤーを新しいワイヤーに変えてトルクを再び入れるにしても、必ずしも今までのワイヤーと同じ度合のトルクを同じように入れるのは難しく微妙に狂ってしまう。そこで、ワイヤーをいつも同じストレート(平坦)にしておいて、ブラケットのスロットに深さの違いや角度の違いを与えることで同じ結果が得られるように工夫したのである(図❺)。

図❹
a:ファーストオーダーベンド
b:セカンドオーダーベンド

図❺ ブラケットのスロット(溝)に角度の入っていないスタンダードエッジワイズ法のブラケット(a)と角度の入っているストレートワイヤーエッジワイズ法のブラケット(b)の比較

追求3 どこが、どれだけ、どう違う?

ストレートワイヤーエッジワイズ法はスタンダードエッジワイズ法から進歩したテクニックであるから、当然そこには何らかのテクニック上の改良がなされたことが想像できる。むろん、進歩したテクニックといえども、すべてにそうであるように利点もあれば欠点もある。そこで利点、欠点はさておき、スタンダードエッジワイズ法とストレートワイヤーエッジワイズ法とでは、どこがどれだけどう違うかをみてみると、1)ブラケットの形態、2)ワイヤーのアーチフォームの形態、および3)ワイヤーの性質について違いがあることがわかる。

1)ブラケットの形態の違い

先に述べたが、スタンダードエッジワイズ法ではワイヤーにループ、ファーストオーダーベンド、セカンドオーダーベンドおよびトルク(サードオーダーベンド)を屈曲することによって正常咬合を作り出していくのであるが、ストレートワイヤーエッジワイズ法は、ワイヤーに各種のベンドを屈曲しない方法であって、かわりにブラケットのスロット(溝)の深さを変えたり、スロットに角度を入れたりして、主として形状記憶合金のワイヤーを用いて正常咬合を作り出していく方法である。

2)ワイヤーのアーチフォームの形態の違い

スタンダードエッジワイズ法とストレートワイヤーエッジワイズ法のアーチフォームとでは、かなりアーチの形態が違う(図❻)。 スタンダードエッジワイズ法のアーチフォームは、アーチブランクといって解剖学的な正常咬合の基本形をしているが、ストレートワイヤーエッジワイズ法のアーチフォームは、このスタンダードエッジワイズ法の基本形からブラケットのスロットの深さに対応して、上顎側切歯、犬歯および臼歯部位のアーチの形態を修正した卵形のアーチフォームをしている。スタンダードエッジワイズ法のアーチブランクでは、理想的なアーチ(アイディアルアーチ)を作るのに、ファーストオーダーベンドという頬舌的なベンドを屈曲しなければならないが、ストレートワイヤーエッジワイズ法では、アーチフォームをそのまま装着すれば同じ効果が出るようにアーチが改良され、ブラケットが工夫されている(図❼❽)。

図❻ スタンダードエッジワイズ法(a)とストレートワイヤーエッジワイズ法(b)のアーチの形態(アーチブランク)の違い

図❼ スタンダードエッジワイズ法における上下顎理想的アーチ(アイディアルアーチ)

図❽ セカンドオーダーベンドのベンディングと同じ効果を示すストレートワイヤーによる臼歯群の遠心傾斜移動

3)ワイヤーの性質の違い  

スタンダードエッジワイズ法のワイヤーは主として強さおよび耐食性にすぐれた18―8ステンレススチールワイヤーを使用しているが、ストレートワイヤーエッジワイズ法のワイヤーは、いわゆる超弾性ワイヤー(形状記憶合金)と呼ばれるニッケルチタン(Ni―Ti)合金を使用している。むろん、他の高度に弾性のあるワイヤーも使用するが、いずれも口腔内で化学的に安定して、変色や腐食しないこと、作られたものが強固でこわれないことなどの条件を満足するものでなければならない。とくにストレートワイヤーエッジワイズ法で用いるワイヤーは、屈曲できないが、超弾性をもたせるため、ある条件下で形状記憶、超弾性を有するように熱処理がなされたワイヤーであって、屈曲せず使用するものである。

追求4 比べてみたら、どっちがどっち?

いずれの方法も先に述べたように利点、欠点があるが、総合的にみてどっちの方法がどんな点ですぐれているのか比べてみる。たしかに歴史的にみて、ストレートワイヤーエッジワイズ法は、スタンダードエッジワイズ法の進歩した方法であるからすぐれている点がいくつかある。それら両者を比較していくと以下のいくつかの点に集約される。

1)ワイヤー屈曲の手間が省かれた点  

スタンダードエッジワイズ法では歯の移動に際し、ループ、セカンドオーダーベンド、サードオーダーベンドおよびアーティスティックポジショニングベンドなどのベンドを屈曲して歯を動かしていたが、ストレートワイヤーエッジワイズ法ではワイヤーの屈曲を行う必要がないため難しいワイヤーの屈曲の手間が省かれ、治療方法がスタンダードエッジワイズ法より簡素化された。

2)ワイヤー屈曲を一定化した点 

スタンダードエッジワイズ法で屈曲する複雑なベンディングは、ワイヤーを交換するたびに、再び同じ条件での屈曲を行うという大変な技術が必要とされる。しかし、そんな神ワザを有する人は少なく、たいていは以前とは多少異なるベンディングを屈曲して、同じ条件をもつものとしてワイヤーを交換しているのである。これに対してストレートワイヤーエッジワイズ法では、いつも同じ形態をしたワイヤーを交換するだけであるから、同じ条件のもとに一定化された効果が期待できるのである。

3)治療時間の短縮された点  

ワイヤーを屈曲しなくても、本来のワイヤーのもつ超弾性の効果によって歯が移動するため、ストレートワイヤーエッジワイズ法では、ワイヤーを屈曲する手間の時間だけ短縮され、総合的にスタンダードエッジワイズ法よりも治療時間が短縮される。どれくらい治療時間が短縮されるかは、症例の難易度によって異なるが、一般的にみて約6ヵ月以上は治療時間の短縮ができると思われる。

4)ワイヤーの持つ矯正力が緩徐であるため歯や歯周組織に対する為害性が少ない点  

ストレートワイヤーエッジワイズ法では超弾性を有する形状記憶合金を使用するため、従来のスタンダードエッジワイズ法で使用する18―8ステンレススチールワイヤーよりも矯正力が緩和され、歯根吸収などの為害性が少なくなったように思われる(図❾)。

図❾ 矯正治療における歯根吸収

図➓ ループを付与したスタンダードエッジワイズ法(a)とループのないシンプルなストレートワイヤーエッジワイズ法(b)の衛生的な面での違い

5)複雑なワイヤーベンディングを行わなくなったため、以前より衛生的になった点 

スタンダードエッジワイズ法ではループなどの複雑なベンディングを行うため、食物残渣がたまりやすく、齲蝕や歯周疾患になりやすいが、ストレートワイヤーエッジワイズ法ではストレート(平坦)なワイヤーを用いるので、より衛生的になった(図➓)。
その他、ストレートワイヤーエッジワイズ法はそもそもスタンダードエッジワイズ法が改良されたテクニックだけあって、かなりテクニック的に容易になったが、ブラケットのスロットの角度の付与の方法が米国人の正常咬合者の形態に合わせて付与されているため、日本人の正常咬合者の形態に合わせたものを開発する必要がある。その点がストレートワイヤーエッジワイズ法の欠点といえば欠点である。いずれにしても、ストレートワイヤーエッジワイズ法を行う場合、スタンダードエッジワイズ法のテクニックと知識を十分習得したうえで行うと本当に身につくものと思う。

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