Q&A 補綴 CAD/CAM冠の接着強さを向上させる「MRG」とは?|デンタルダイヤモンド 2023年10月号

Q&A 補綴 CAD/CAM冠の接着強さを向上させる「MRG」とは?|デンタルダイヤモンド 2023年10月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2023年10月号より「CAD/CAM冠の接着強さを向上させる「MRG」とは?」についてです。

CAD/CAM冠の維持力増強のために、冠の内面に溝を掘ることが有効と聞きました。具体的にどのようにすればよいのかを教えてください。     福井県・T歯科

クラウンの維持力はテーパーや支台歯の大きさ(高径、幅径)に依存し、維持力に不安がある場合には補助的保持形態を付与するなどして対応してきました。現在では、歯質(エナメル質、象牙質)とクラウンを構成する歯冠補綴用材料(金属、セラミックス、レジン)に高い接着強さを有する歯科用接着材が存在するため、機械的嵌合効力にのみ頼ってきた時代から大きく変化しています。
 しかしながら、化学的結合力のみではいまだ十分な接着強さを得ることは難しく、アルミナブラスト処理などの機械的嵌合効力を向上させる前処理の併用が推奨されています。記憶に新しいCAD/CAM冠の脱離にまつわる事例では、多くの臨床医と研究者に“クラウンがいまだに脱離をする”ということを思い出させてくれました。
 それまでは、メタルフリークラウンのチッピングや前装破折を防止するため、もしくは支台歯を守るために“歯科用接着材”を用いましょうとお話しすることが多かったのですが、2014年以降は保険診療であっても“接着フリーク”が行ってきた術式を真似して歯科用接着材を用いなければ、容易に脱落してしまうクラウンとお付き合いすることとなりました。
 現在では、多くの診療室にサンドブラスターが用意されていると思われますが、それまでは接着フリークのお気に入りのような認識であった機器がクラウンの装着時に欠かせないものとなっています。筆者の臨床では、ジルコニアやCAD/CAM冠ではもちろんのこと、「金属でも必ず使うように!」と若いときから先輩にきつく教育されてきたので、当然の行為となっていましたが、多くの臨床調査から見聞きした実際の使用率をみて、その低さに驚きました。
 このような背景から、少なくとも保険診療ではもう少し接着前処理のステップを減らすことができないか、せっかくCAD/CAMを用いた機械加工で製作できるクラウンなのだから、機械にもう少し仕事をさせられないかとの発想から、製作段階でクラウン内面に横溝を付与し(図1)、その機械的嵌合効力で接着強さを向上させる方法を検討しました。
 この横溝をマイクロリテンティブグルーブ(Micro retentive groove:MRG)と名付け、MRGの効果についてさまざまな研究を行いました。結論からお話ししますと、MRGは当然のことながら、接着強さを向上させます(表1)。それもアルミナブラスト同等以上の効果1)が認められています。
 では、なぜいまだに臨床でお披露目できないかというと、加工プログラムの製作が非常に難しいことが挙げられます。研究では専用設計の支台歯に対して、理想的なクラウンを設計し、その理想的な内面にMRGを切削加工します。しかしながら、実際の臨床では研究で用いたような超標準的なクラウンばかりではなく、フィニッシュラインの高さが大きく異なったり、軸面の形成量が取れなかったり、支台歯の高さが足りなかったりと、MRGを設定するのが難しいケースが多く散見されます。
 そのような支台歯に対して設計されたクラウンにMRGを付与するためには、その形態に合わせたMRGの個別設計が必要となり、オートマチックに自動設計させることが難しいのです。筆者の臨床でもメタルフリークラウン、とくにジルコニアとMRGとの相性がよいことから、ほとんどの症例に付与しておりますが、仮着も装着も本当に安心して行えるようになりました。
 通常の製作時間よりも長くかかってしまうことが玉に瑕となりますが、今後の課題として対応できればなと思っております。

 今回Q&Aとして、このようなニッチな研究発表に対してご質問をいただき、本当にうれしく思います。よくMRGをお知りになりましたね! 先生の情報力に感心したとともに、このようなご意見をいただけると研究者として励みになります。


表❶ MRGが付与されたフルジルコニアクラウンの内
図❶ MRGが付与されたフルジルコニアクラウンの内面

表❶ 引抜き接着強さ(N)に対するMRGの影響。冠内面に異なる深さのMRG(0㎛:MRG0,25㎛:MRG25,50㎛:MRG50,100㎛:MRG100)を付与したCAD/CAMレジン冠の引抜き接着強さを計測した。実験の結果、MRG50で492.2(79.9) Nと最高値、Conで55.1(17.5)Nと最低値を示した。また、MRG50はMRG100以外のすべての条件に対し、有意に高い値となった(p<0.05)
表❶ 妊娠初期の歯科治療、投薬の目安

【参考文献】

1)新妻瑛紀,白鳥沙久良,新谷明一:CAD/CAMレジン冠の内面に付与した横溝が接着強さに与える影響.接着歯学,41:26-33,2023.

新谷明一
●日本歯科大学生命歯学部 歯科理工学講座

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