Q&A 法律 突然の賃料増額への対応|デンタルダイヤモンド 2026年1月号

Q&A 法律 突然の賃料増額への対応|デンタルダイヤモンド 2026年1月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊デンタルダイヤモンド 2026年1月号より「突然の賃料増額への対応」についてです。

建物のオーナーからテナントの賃料を増額すると通知を受けました。いまの売上では賃料を値上げされると厳しいのですが、交渉の余地はあるのでしょうか。 富山県・T歯科医院

 賃貸借契約における賃料額は、契約(すなわち当事者間の合意)によって決定されます。そのため、契約の一内容である賃料額の変更(増減)も、当事者間の合意によることが原則です。
 もっとも、賃貸借契約は継続的な契約ですので、契約期間中、賃料額に影響する諸事情に変化が生じることも想定されます。そのため、借地借家法32条1項本文は、「建物の借賃が、土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる」と規定しています。
 ただし、契約上の賃料額が不相当になっているのか否かは判断の問題です。そして、オナー(建物の所有者・賃貸人)からの増額通知(請求)は、あくまで一方的なものです。賃借人が不相当になっていないと考えるのであれば、または単に増額に応じたくないのであれば、増額請求を拒否することも可能です。
 とはいえ、賃借人が増額請求を拒否した場合、賃貸人は、裁判所に対し、賃料増額調停を申し立てることができます。この申し立てがあった場合、裁判所において、賃料の増額に関し、調停官・調停委員を交えて当事者間で協議されます。もっとも、調停は裁判所における話し合いですので、当事者間で合意に至らなければ、調停不成立として未解決のまま手続きは終了します。
 調停不成立となった後、賃貸人は、裁判所に対し、賃料増額請求訴訟を提起することができます。調停と異なり、訴訟は最終的に判決というかたちで裁判所の判断が示されます。判決には強制力がありますので、判決が言いわたされて確定した場合には、判決どおりの賃料額に変更されることになります。訴訟においては、条文上の「不動産に対する租税その他の負担の増減」「不動産の価格の上昇・低下」、「その他の経済事情の変動」「近傍同種の不動産の賃料との比較」が考慮され、契約上の賃料額が不相当になっているのかどうか、不相当であれば相当な賃料額が判断されます。その他、たとえば過去に社会通念上不相当に高額な賃料額であった期間があった、賃料が頻繁に増額されてきたなど、賃貸借契約に係る経緯が考慮されることもしばしばあります。
 以上のとおり、賃料の増額請求は、交渉→調停→訴訟と進みます。増額請求を拒否しても、賃貸人が調停等の法的手続きを望まず、従前どおりの賃料額に据え置かれるかもしれません。増額請求を受けた賃借人としては、このような段階的手続きを賃貸人がどこまでとってくるのかを予想しつつ、またこれまでの賃料変更の経緯や今後の賃貸人との関係性等を考慮し、増額請求に対する諾否を決める必要があります。たとえば、2万円の増額請求に対して1万円であれば応じるなど、請求額の一部についてのみ応じる選択肢もあり得ます。
 なお、ご質問に即して賃貸人からの増額請求について説明しましたが、逆に、賃借人からの減額請求についても同様です。
 もっとも、賃料額の変更に係る特約に関しては異なります。賃貸借契約に賃料を一定期間増額しない旨の特約がある場合、賃貸人は原則として、その期間内の増額請求はできません(借地借家法32条1項ただし書)。他方、一定期間減額しない旨の特約が存在したとしてもその特約は無効であり、その期間内であっても賃借人から減額請求が可能です。この差異は、賃借人保護の観点から設けられています。

井上雅弘
銀座誠和法律事務所


デンタルダイヤモンド 2026年1月号 表紙

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