Dd診断力てすと『舌のぴりぴり感』デンタルダイヤモンド 2022年02月号

3.脳腫瘍

12脳神経スクリーニングを行ったところ、三叉神経第2枝(上顎神経)、内耳神経、舌咽神経に障害を認めた(表1)。中枢神経の異常が示唆されたためMRIを撮影し、左小脳橋角部から内耳道に顔面神経と内耳神経を含む27×20mmの腫瘤を認め、三叉神経基部を圧迫していた(図❷a)。

脳腫瘍を疑いただちに脳神経外科を紹介したところ、聴神経腫瘍の診断のもと手術となった。術後左頬部の違和感は軽快し、舌縁部の知覚異常も減少した(図❷b)。病理所見は神経鞘種であった。

口腔顔面領域の痛みは、歯原性・非歯原性歯痛、筋・筋膜性疼痛、三叉神経痛、口腔灼熱症候群(舌痛症)など非常に多彩である。あきらかな歯科所見を欠き、診断に苦慮することも多い。なかでも脳腫瘍や多発性硬化症などの中枢神経疾患や、顎顔面領域の悪性腫瘍による痛みや違和感は、「Red flags(見逃してはならない危険な所見・兆候)」と称され、生命予後にかかわる可能性があるため、急ぎ専門医への紹介が必要である。

今回、口腔内に器質的異常を認めず、舌尖から舌縁部のぴりぴり感が夕方以降に強くなるため、舌痛症と考え治療を開始した。しかし、三叉神経の知覚鈍麻、三叉および舌咽神経の異常感覚、内耳神経障害などが合併し、中枢神経疾患が疑われたためMRIを撮影したところ、脳腫瘍が検出された。

患者の訴えに「感覚異常や運動麻痺がある、頭痛を伴う、典型的でない」など「何となく通常と違う感じ」があれば、Red flagsを念頭に12脳神経スクリーニングを行うとよい。とくに器具を必要とせず、数分でできる簡便な検査なので、日本口腔顔面痛学会の講習会などで身につけておくことが望ましい。

表(1) 12脳神経スクリーニング検査の結果

脳神経所見
Ⅰ(嗅)嗅覚異常なし
II(視)視覚異常なし
III(動眼)
IV(滑車)
VI(外転)
眼球運動、対光反射、視野狭窄、
複視等なし
Ⅴ(三叉)左頬部の知覚低下
(膜が張ったような感じ)、
舌縁部のぴりぴり感、
冷温刺激への敏感さあり
VII(顔面)前額しわ寄せ、閉眼、
口唇運動障害なし
VIII (内耳)左聴覚低下
IX(舌咽)
Ⅹ(迷走)
XII(舌下)
舌後縁のぴりぴり感あり
舌の萎縮・偏位、軟口蓋の
運動障害なし
XI(副)首の旋回・肩の挙上障害なし

図❷ 頭部MRI

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