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はじめに
総義歯治療なんてもっと嫌い。
義歯治療の何が面白いのかわからないし、まったく興味がわかない。
個人トレーを作って……、コンパウンドを使って……、筋圧形成をして……。
義歯治療は面倒くさい。
最悪なのは、“コンパウンド”。
温めすぎるとデロデロして使えないし……。
温めていないとすぐに固まるし……。
コンパウンドは使い勝手が悪いし、イメージが悪いから、もともと嫌い。
人工歯排列なんて……、無理でしょ! 無理! 無理!
クラウンのワックスアップもできないのに人工歯排列なんてもっとできない。
人工歯排列を勉強するぐらいなら、もっと別の勉強をしたい。
ダイレクトボンディングだとか、歯周外科だとか、インプラントだとか……。
人工歯の調整だって……、一度削ったら、元に戻せないし、触るのが怖いんだよね。
総義歯の印象だって……、パパみたいに30年以上のキャリアがあれば、完璧に採れるだろうけど、卒業して6年の私が、有歯顎の印象だって下手なのに、総義歯の印象なんて、どう考えても下手だから、無理でしょ。
過去に勤めた病院も、いま勤めるパパの病院も、義歯治療は院長先生の十八番。
義歯の調整だって、研磨だって……、決して触ることを許されない。
そもそも卒業してから義歯治療をしたこともないし……。
どうせ代診の私には、義歯治療を行う患者もいなければ、チャンスもない……。
義歯治療なんてパパが行えばよいのだし、私はそれ以外の治療を分担すればよい。
義歯治療なんて……、やっぱり大嫌い。
2006年 前畑 香(30歳)
2006年、院長であった父が大動脈瘤破裂で、急に他界した。父の生前、私は父と仕事に関する口論が絶えず、衝突を繰り返していた。そのため、父から歯科技術を直接的に教えてもらうことはなかった。父が亡くなった翌日(奇しくも私の31歳の誕生日)から、私は院長となり、そして人生の大きな転機を迎えた。しかし、当時卒後6年だった私は、義歯治療を見学したことはあっても、一度も治療したことがなかった。
しかし、私は、総義歯治療に関する“武器”をもっていた。それは、父が亡くなる1ヵ月前に、渡辺宣孝先生からご教授いただいたアルギン酸2回法印象であった。父が生前に治療した患者の模型や装着義歯を参考に、渡辺宣孝先生が行うアルギン酸2回法印象と、父が行っていたティッシュコンディショナーを用いた咬座印象を見様見真似で行い、総義歯治療に臨んだ。
概形印象としてのアルギン酸2回法印象と最終印象としてのティッシュコンディショナーを用いた咬座印象を行うと、経験や技術がない私でも、印象が意外にもよく採得できていることに気がついた。「印象採得がどうにかなれば、総義歯治療もどうにかなるだろう」と考えながら、その後、多くの先生方の影響を受けた。そして、現在40歳を迎える私は、総義歯治療が大好きになった。
本書を手に取ってくださった方々へ
31歳まで総義歯治療を一度も行ったことがなく、総義歯治療が大嫌いだった私が考えるこの本のコンセプトは、“料理本のような総義歯治療の本”です。マンガ世代、スマホ世代の総義歯治療の経験が浅い先生方や総義歯治療の苦手な先生方に、総義歯の楽しさを伝えるためには、料理本のように、文章や注釈を読まなくても、写真で内容が理解できるものを作らなくてはならないと考えました。文章で総義歯治療を学ぶのではなく、写真を追いながら総義歯を学ぶ“総義歯治療の入門の入門書”として手に取っていただき、少しでも総義歯治療の楽しさをわかっていただければ幸いです。
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前畑 香(まえはた かおり)
1975年 神奈川県生まれ
2000年 神奈川歯科大学歯学部 卒業
2006年 ナカエ歯科クリニック 院長
2022年 神奈川歯科大学大学院研究科 修了(歯学博士)
◉ナカエ歯科クリニック
〒240-0112 神奈川県三浦郡葉山町堀内895-1
神奈川歯科大学 特任教授
有床義歯学会 指導医・理事
日本歯科補綴学会 専門医
日本デジタル歯科学会 専門医
日本顎咬合学会 認定医
本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行にあたって」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行にあたって」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、『DENTURE 1st book 増補改訂版 ビジュアルでわかる総義歯製作“超”入門』です。