- 最近、患者さんから当院への要求が強く寄せられます。治療内容の他、スタッフの対応や電話での受け答えなどにも及び、なかには理不尽なものもあります。今後、エスカレートを防ぐためには、医院としてどのような対処をすればよいでしょうか。 兵庫県・Sデンタルクリニック
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1.ペイシェントハラスメントとは
サービス利用者が、サービス提供者に対して不満や要望を示してくるもののうち、その内容に妥当性がないものに関しては、「カスタマーハラスメント」として扱われることになります。医療現場において使われている「ペイシェントハラスメント」も同義語となるでしょう。
患者さんからの要求に妥当性が認められず、提供する医療行為や対応に過失や瑕疵がないこと、また医療とは無関係であること、ハラスメントに該当する他、身体的な攻撃(暴行、傷害)、精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)、威圧的な言動、スタッフ個人への攻撃・要求なども、同様にハラスメントに該当する例として挙げられています(厚生労働省:明るい職場応援団HPより)。
2.事実内容の確認と情報共有
医院が行う対応としては、まずハラスメントの事実内容を確認し、院長およびスタッフへの報告を行うためにミーティングを開きます。患者さんからの強い要求を受けるのは、電話対応をする受付担当者が多くなると思われますので、ハラスメント内容を整理し、医院全体で共有することを目的とします。
内容によっては、医院側の不手際により患者さんに不快な思いをさせたものなどがあるかもしれませんし、聞き間違いなどによる勘違いの場合もあるでしょう。医院の不手際については真摯に再発防止策を協議しなければなりませんが、患者さんからの不当な要求と認められるものについては、ハラスメントへの対応として協議を行います。
3.ハラスメントへの対応
ハラスメントの内容が医療に関する場合、すぐに担当歯科医師に繫げる体制を構築します。受付担当者が不確実に対応して問題が大きくならないよう、医療内容に関しては歯科医師以外のスタッフが関与しない体制にしましょう。
次に医療以外の、たとえば接遇応対に起因した不備や不手際に関しては、患者さんの要求内容を正確に把握することに努めます。担当者で適切に対応できなければ部門リーダーに相談する、あるいは院長へ相談すべきかを検討してください。対応したスタッフがハラスメントに独断で応対しないように、ミーティングで整理した事例や内容に基づいて、担当歯科医師へ繫ぐ案件か、対応当事者およびリーダー、もしくは院長に対応を求める案件かを判断できるよう、シミュレーションを行うなどスタッフ全員で検討してください。
また、ハラスメントに対する医院の対応方針について、院内掲示板で掲示したり、医院HPで告知をしたりするなど、患者さんへの情報提供を行います。提示する内容としては、暴力や暴言などに発展する、あるいは器物損壊など物理的被害を伴う攻撃については、診療をお断りする場合があることや、警察へ相談や通報することなどを明示します。さらに、患者さんからの要求が不当なものか否かを後から検証できるように、電話録音や院内録画などの設備対応も検討します。
電話録音については、患者さんと医院の双方の主張が食い違うことについて、原因の特定が可能ですし、スタッフが録音内容を聞いて確認できることはもちろん、必要な場合には患者さんにも聞いてもらい、両者の理解に努めます。院内録画については、院内での暴動など不測の事態に対応するためには準備をしてもよい事項です。院内全体ではなくても、受付周辺を撮影範囲とし、受付応対時に攻撃を伴う患者さんの特定に繫げます。●
ハラスメントへの対応としては、個人の裁量に委ねず、組織として医院全体で取り組むことが大切です。院長およびスタッフ全員が、つねに毅然とした態度で対応できるよう準備を進めてください。
門田 亮
デンタル・マネジメント・コンサルティング

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学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2025年9月号より「患者さんからのハラスメントへの対応」についてです。