- 当院には抗がん薬治療中の患者がよく来院します。そこで、歯科医師が処方薬を検討する際、気をつけるべきことを教えてください。 千葉県・E歯科医院
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がん患者への処方を考慮しなければならない場面には、①抗がん薬による副作用が起こっており、新たに処方する医薬品が患者の状況に影響がある場合、②抗がん薬と新たに処方する医薬品との間に相互作用がある場合、が挙げられます。
1.医薬品によって患者の状況に影響がある場合(表1)
抗がん薬の副作用としては、血液毒性や消化器毒性、心毒性、肺毒性、肝毒性、腎毒性、神経毒性、皮膚毒性など、多彩です。がん治療に伴う骨髄抑制により各血球数の減少が生じている場合には、血算数に影響を及ぼす薬剤を新たに処方することによるさらなる減少に注意したいです。
また、抗がん薬で、下痢や吐き気、便秘などの消化器症状をすでに起こしている場合には、新たな処方薬でこれらを増悪させる可能性があります。
さらに、抗がん薬は間質性肺炎を惹起しやすく、同様に間質性肺炎を起こしやすい薬剤との併用には慎重さが必要です。抗がん薬により腎機能低下が生じている際には、腎機能に応じて用量調節の必要な薬剤の投与量に調節を要し、腎障害を起こしやすい新たな薬剤の投与にも注意が必要です。2.医薬品の間に相互作用がある場合
CYPは最も重要な薬物代謝酵素であり、この酵素を介して起きる薬物相互作用は、臨床上で問題となります。CYPの1つであるCYP3A4が代謝に関与する抗がん薬は多いです。マクロライド系抗菌薬は、CYP3A4を阻害することが知られており、併用により抗がん薬の血中濃度が上昇する可能性があります。
一方で、リファンピシンやカルバマゼピン、フェニトインなどは、CYP3A4を誘導するため、抗がん薬の代謝や排泄過程が促進され、期待する効果を得られない可能性があります。
また、内服の分子標的治療薬であるチロシンキナーゼ阻害薬やマルチキナーゼ阻害薬の一部では、胃酸の分泌が減少していると吸収が低下する可能性があるため、胃酸分泌を抑制する薬剤との併用は避けます。
さらに代謝拮抗薬のペメトレキセドは、NSAIDsとの併用で腎血流を減少させ、糸球体ろ過量が低下する可能性があります。このように多くの薬剤の間で相互作用は起こり得るので、投与されている抗がん薬と、新たに処方する薬剤との間に禁忌や注意がないかを添付文書で確認することが、処方時には重要です。3.歯科の日常診療で処方されることが多い薬剤(表2)
歯科での代表的な処方薬は、①NSAIDs、②抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬、③胃腸薬、④止血薬、⑤うがい薬、⑥口腔用ステロイド薬などです。
歯科医師が抗がん薬治療中の患者へ処方薬を検討する際は、添付文書で両薬剤の特徴などを十分に調べることを習慣としてください。松尾宏一
福岡大学薬学部 腫瘍・感染症薬学研究室

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学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2025年10月号より「抗がん薬治療中の患者へ薬を処方する際の注意点」についてです。