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刊行にあたって
今世紀に入りインプラント治療は、にわかに脚光を浴びるようになってきた。「骨接合型インプラント」が上市されたばかりのころは、無歯顎の患者を対象とした機能回復処置方法であったが、その後、部分欠損症例にも適応が広がるにつれてインプラント治療が一般化し、令和4年歯科疾患実態調査の概要(厚生労働省)から50歳以上の各年齢層で2.9~5.9%の国民がインプラント治療を受けていることがあきらかとなっている。さらに、8020運動の推進により、国民の多くが以前と比較し自身の歯を保存している実態もあきらかとなっている。しかし、歯が保存されていても歯周疾患の罹患状況は高値を維持しており、とくに75歳以上では歯科疾患実態調査を行うごとにその割合が高くなってきている。一方で、国民の約8割は1日2回以上のブラッシングを行い、デンタルフロスや歯間ブラシなどの補助的清掃用具も約半数が使用しており、国民の健康意識に伴う行動変容と疾患の実態が一致していないのが現状である。
近年の研究結果から、インプラント治療を受けた一定数にインプラント周囲疾患が発症することが報告されている。歯周病の分類(2017年)1)の発表以降の調査では、インプラント治療を受けた患者の約2割が骨吸収を伴うインプラント周囲炎に罹患することがあきらかになっている2)。このインプラント周囲炎発症の明確なリスク因子の1つに「歯周病の既往あるいは進行」がある。本書では、国民の歯やインプラントの健常な状態をいかに維持し、生涯にわたり健康で、なおかつ人生の終末期においても対症療法しかできない状況にならないようにしたいという想いから、われわれ歯周病専門医からみたインプラント周囲疾患の予防と対処法について著した。
●参考文献
1)Berglundh T, Armitage G, Araujo MG, Avila-Ortiz G, Blanco J, Camargo PM, Chen S, Cochran D, Derks J, Figuero E, Hämmerle CHF, Heitz-Mayfield LJA, Huynh-Ba G, Iacono V, Koo KT, Lambert F, McCauley L, Quirynen M, Renvert S, Salvi GE, Schwarz F, Tarnow D, Tomasi C, Wang HL, Zitzmann N: Peri-implant diseases and conditions: Consensus report of workgroup 4 of the 2017 World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Conditions. J Periodontol, 89 Suppl 1 : S313-s318, 2018.
2)Herrera D, et al: Prevention and treatment of peri-implant diseases-The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 50(Issue S26), 4-76,2023.
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辰巳順一(Junichi TATSUMI)
1986年 城西歯科大学(現:明海大学歯学部)卒業
1990年 明海大学大学院 歯学研究科 修了
1990年 明海大学歯学部助手(歯周病学講座)
1995年 明海大学歯学部講師(歯周病学講座)
2006年 明海大学歯学部 准教授(口腔生物再生医工学講座歯周病学分野)
2016年〜2022年 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)専門委員
2019年〜 朝日大学歯学部 教授(口腔感染医療学講座 歯周病学分野)
2020年〜 明海大学客員教授
2020年〜 朝日大学医科歯科医療センター副センター長、医療安全管理室長、生涯研修センター副センター長
2025年4月〜 朝日大学医科歯科医療センター長、朝日大学歯学部生涯研修センター長
【おもな所属・役職】
日本歯周病学会 常任理事・専門医・指導医・口腔インプラント委員会委員・用語委員会委員長/日本臨床歯周病学会 客員 会員・倫理利益相反委員会委員/日本顎咬合学会 指導医/日本口腔インプラント学会 会員/ American Academy of Periodontology, International Member/Dental Concept 21学術アドバイザー
【おもな著書・訳本】
1.歯周病と骨の科学 骨代謝からインプラントまで(医歯薬出版,日本語版2002年)(Koonja出版,ハングル語版 2005年)
2.CARRANZA’S クリニカル・ペリオドントロジー第9版 翻訳(クインテッセンス出版,2005)
3.BONE インプラントのための骨の生物学・採取法・移植法 その原理と臨床応用 Garg AK 著 翻訳(クインテッセンス出版,2005)
4.インプラント修復の臨床基本手技4 トラブル対応とメインテナンス(デンタルダイヤモンド社,2011)
5.光殺菌 歯周治療入門 PhotoDentistryのエビデンスとコンセプト(医学情報社,2012)
6.聞くに聞けない 歯周治療100(デンタルダイヤモンド社,2018)
7.臨床歯周病学第3版(医歯薬出版,2020)
8.インプラント治療のトラブル&リカバリー 併発症からクレーム対応まで(デンタルダイヤモンド社,2021)
9.歯科衛生士講座 歯周病学 第5版(永末書店,2021)
10.ザ・ペリオドントロジー第4版(永末書店,2023)
11.大学生の健康ナビ2025(岐阜新聞社,2025年4月)
【ガイドライン】
1.日本歯周病学会編 歯周病患者における口腔インプラント治療指針及びエビデンス2018.
2.日本歯周病学会編 歯周病患者における再生療法のガイドライン2023.
須藤瑞樹(Mizuki SUTO)
2008年 北海道医療大学歯学部歯学科 卒業
2013年 東北大学大学院歯学研究科博士課程 修了
2013年 東北大学病院 歯周病科 医員
2020年 医療法人誠歯会 ホワイトブライトデンタルオフィス(仙台市)勤務
2020年 東北大学病院 歯周病科 研修登録医
2021年 奥羽大学歯学部 非常勤講師(〜2023年)
2024年 朝日大学歯学部 助教(口腔感染医療学講座 歯周病学分野)
【おもな所属・役職】
日本歯周病学会 評議員・専門医/日本歯科保存学会認定医
清水雄太(Yuta SHIMIZU)
2015年 朝日大学歯学部歯学科 卒業
2020年 朝日大学 大学院(専攻 歯周病学)修了(岐阜大学大学院医学系研究科 生命原理学 再生機能医学分野 出向)
2020年 朝日大学歯学部 助教(口腔感染医療学講座 歯周病学分野)
【おもな所属・役職】
日本歯周病学会 専門医/日本歯科保存学会 専門医/日本再生医療学会 認定医
【おもな著書・訳本】
特別企画 インプラント周囲疾患発症や進行にインプラント表面構造は影響するのか? Quintessence DENTAL Implantology, 31(2),123-128, 2024.
本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行にあたって」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行にあたって」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、『インプラント周囲疾患 診断・予防・対処法』です。