Q&A 歯科一般 歯周病患者は不妊になりやすい?|デンタルダイヤモンド 2024年10月号

Q&A 歯科一般 歯周病患者は不妊になりやすい?|デンタルダイヤモンド 2024年10月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2024年10月号より「歯周病患者は不妊になりやすい?」についてです。

不妊のリスクファクターの1つとして歯周病が挙げられていますが、最新の研究・知見を教えてください。 北海道・O歯科

1.原因がはっきりしない原発性不妊症が不妊症例の10~15%を占める
 超少子高齢社会を迎えたわが国では、最近、出生数は80万人/年を割り、政府の予測よりも11年早く減少しています。そのため、出生数の維持・増加は国家的な喫緊の課題です。しかし、昨今の生活スタイルの変化に伴う晩婚・晩産化により、不妊に悩む夫婦(カップル)が急速に増加しています。
 不妊とは、日本産科婦人科学会によると、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間(約1年)妊娠しないものと定義されています。近年、不妊のカップルは約4.4組に1組と報告されており、経済的不況等の影響によって妊娠を考える年齢がますます上昇している背景もあり、この割合は今後さらに上昇することが予測されます。
 不妊の原因因子は、男性側、女性側あるいはその両方にある場合があります。一方、従来の検査では何も原因がみつからない「原発性不妊症(原因不明不妊)」は不妊症例の10~15%を占めると報告1)されています。また、2022年4月から不妊治療に対する健康保険が適用されたこともあり、不妊治療に対する国民の意識はさらに高まりをみせています。そのため、不妊治療の成功率をさらに高める新しい概念の創生が社会的にも強く望まれています。

2. 不妊の新しいリスクファクターとしての「歯周病」の可能性
 前述のような社会情勢のなか、最近、口腔疾患の1つである「歯周病」の罹患が妊娠の成立に悪影響を及ぼす可能性が報告されはじめています。歯周病は、歯周ポケット内に停滞するデンタルプラークなどのバイオフィルムの性状がsymbiosisからdysbiosisへのマイクロバイアルシフト(病原性の低い状態から高い状態へ変化すること)に伴う高病原性化によって発症、進行する感染症です。
 近年、歯周炎組織局所で産生亢進した炎症性サイトカインが血行性に全身へ波及することによって、糖尿病や認知症などの多種多様な全身疾患に悪影響を及ぼすことがあきらかとなっています2)
 とくに歯周病が妊娠成立に及ぼす悪影響として、歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisに対する唾液中のIgG抗体価が高い女性においては、抗体価が低い女性に比べて妊娠が成立するまでに長い期間を要する3)ことや、歯周病を罹患している女性が妊娠を希望してから実際に妊娠成立するまでの平均期間(7.1ヵ月)が、歯周病を罹患していない女性の平均期間(5.1 ヵ月)と比較して有意に延長することが報告されています4)。また、原因不明の不妊女性患者では、う蝕や歯周病といった口腔疾患の罹患率が高いことが報告されています5)
 そして、歯周病原細菌Fusobacterium nucleatumの感染が、不妊に関係する子宮内膜症の発症を促進することも報告されています6)。さらに、重度の歯周病を罹患している男性では、生殖機能が低下する(精子欠乏症や精子無力症)といった男性不妊との関係性も報告されています7)
 これらの研究報告は、歯周病が不妊病態の構築に関与する可能性を強く示唆するものであり、今後、歯周病と不妊の連関メカニズムの解明が強く望まれます。

【参考文献】

1) 日本生殖医学会:生殖医療Q&A.http://www.jsrm.or.jp/public/index.html#funinshoqa_contents.
2) 日本歯周病学会(編):歯周病と全身の健康.2016.
3) Paju S, et al.: Porphyromonas gingivalis may interfere with conception in women. J Oral Microbiol, 9(1),2017.
4) Hart R, et al.: Periodontal disease: a potential modifiable risk factor limiting conception. Hum Reprod, 27(5), 2012.
5) Telatar GY, et al.: Periodontal and caries status in unexplained female infertility: A case‒control study. J Periodontol, 92(3), 2021.
6) Muraoka A, et al.: Fusobacterium infection facilitates the development of endometriosis through the phenotypic transition of endometrial fibroblasts. SciTransl Med, 15(700), 2023.
7) Prager N, et al.; Idiopathic male infertility related to periodontal and caries status. J Clin Periodontol, 44(9), 2017.

大森一弘
●岡山大学 学術研究院医歯薬学域
歯周病態学分野


デンタルダイヤモンド 2024年10月号 表紙

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