処置および経過
患者が手術を希望しなかったため、画像評価による定期的経過観察を継続した。最初の画像評価から約9ヵ月後に撮影したMRIのT2WIで、joint effusion内に多発していた低信号域の増加が認められた。左側顎関節部の痛みの改善も乏しいことから、初診から1年4ヵ月後に直視下で腫瘤摘出術を施行した。上関節腔を開放すると、多数の0.5~5㎜程度の腫瘤が溢れ出てきた(図❸❹)。術後開口量は41㎜を維持し、左側顎関節部の疼痛は消失した。術後再発もなく、経過は良好である(図❺❻)。
滑膜性骨軟骨腫症(SVC)は、滑膜組織内で軟骨化生が起こり、形成された軟骨塊が滑膜から遊離して関節腔内に遊離体を形成していく疾患で、症状は通常の顎関節症と同じである。そのため、長期にわたり効果のない治療が継続されることがしばしばある。今回の症例も患者の自覚症状は軽度の顎関節症状であったが、MRIにてjoint effusionが不均一であったため、SVCを疑って定期的にMRIやCTにて経過を追った。SVCは長期間かけて進行性の変化を示すため、患者の自覚症状が改善した後も定期的な画像の評価が必要である。

図❸ 術中写真

図❹ 摘出標本

図❺ 術後のMR画像(左側顎関節部矢状断)

図❻ 術後のCT画像(左側顎関節部矢状断)
1.顎関節滑膜性骨軟骨腫症