Dd診断力てすと『多発する口内炎』デンタルダイヤモンド 2019年1月号

1.Hunter舌炎

臨床経過

胃の全摘を受けていることより、鉄欠乏症、ビタミンB12(以下VB12)欠乏症などによる粘膜異常が考えられたため、血液検査を施行したところ、大球性低色素性貧血、VB12の欠乏が認められたため、Hunter舌炎と診断した。かかりつけ内科で注射によるVB12補充療法を施行したところ、舌乳頭の萎縮、びらんおよび口内炎はともに改善し、味覚も戻り血液データも改善した(表1)。現在かかりつけ内科と協力しながら口腔内管理を継続している。

考察

口腔粘膜の異常を来す原因のなかで消化管が関与する場合、鉄欠乏症、VB12欠乏症を考える必要がある。鉄欠乏症では、Plummer-Vinson症候群による口腔粘膜の萎縮、嚥下痛などが知られており、VB12欠乏症ではHunter舌炎が知られている。また、VB12欠乏症では悪性貧血との関連が有名である。悪性貧血は、自己免疫化生性萎縮性胃炎による壁細胞由来内因子の減少に起因するVB12吸収障害が原因といわれている。

本症例は既往歴に胃がんによる胃全摘手術があったことにより、鉄欠乏性貧血からくる口腔粘膜炎、もしくはVB12吸収障害による口腔粘膜炎が考えられた。かかりつけ内科医との連携により大球性低色素性貧血が確認され、VB12は92ng/mLであった。200pg/mLを下回る場合にVB12欠乏症を示すとされており、本症例はVB12欠乏症が確認できたため、臨床診断をHunter舌炎とした。

表❶ 臨床検査値の推移

初診時治療1ヵ月治療3ヵ月
RBC(×104/μL)181266402
MCV(fL)131108.688.4
Hb(g/dL)8.49.410.6
Ht(%)24.128.935.5

図❷ 治療開始2ヵ月。舌乳頭萎縮、舌色調、
口内炎、味覚障害はそれぞれ改善した

大球性貧血の原因となる疾患としては、VB12欠乏症の他、葉酸欠乏症や骨髄異形成症候群が考えられる。VB12の欠乏では末梢神経障害による知覚異常や知覚鈍麻など、神経学的合併症もみられることが特徴の一つであり、味覚障害も末梢神経障害の一症候と考えられた。また、VB12は貯蔵量が大きいため、摂取・吸収低下から欠乏症状が発現するまでに数年を要するといわれている。

本症例は、内科でVB12の注射投与を受け、赤血球数、Hb、Ht、MCVなどが2~3ヵ月で改善しており(表❶)、同時に口腔粘膜炎も改善した(図❷)。注意すべきこととして、造血の回復とともに、胃切除によって慢性的に存在する鉄欠乏状態が顕在化する場合があり、Plummer-Vinson症候群のような粘膜萎縮症状が再燃することも考えられるため、定期的な口腔内観察が必要と思われる。

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