小さな水疱の口内炎 | 帯状疱疹 |
◆◆◆ | 症例の紹介 | ◆◆◆ |
1)口内炎が痛いので、まず口腔外科へ
2)耳が痛いので、次に耳鼻科へ
この患者さんが口腔外科を受診されて、まず拝見。体温は37.0℃、四肢の脱力感などはない。佐々木先生が、「おーい山崎君、口蓋の右側にだけ、水疱があるよ」。
患者さんの口の中をみると、口蓋の正中の右側にだけ、水疱が4つある。水疱の直径は2〜3mmの小さいものであるが、患者さんは激痛を訴えている。「耳が痛いといっていますから、ちょっと耳の中をのぞいてみます」と返事をして、無影灯で外耳道をみると、水疱が1個みえる。「顔面神経麻痺はありませんが、帯状疱疹のようですね。耳が痛いのは、ハントの前駆症状かもしれません」と返事をした。
患者さんへの説明を含めて、私たちのしたことを以下に記す。
1.あなたの病気は、帯状疱疹というビールスの感染症です。耳が痛いということは、ラムジー・ハント症候群という重い病気に移行することが考えられます。
2.驚かすようで申し訳ありませんが、これから顔面神経麻痺といって、顔の半分が動かなくなることがあるかもしれません。
3.発病からの日数が1日ですから、アシクロビルという薬が効くことを願っています。
4.これからの観光は中止して、病気の治療に専念してください。
このような説明に対して、インテリジェンスの高い患者さんだったので、率直に納得してくれた。治療の専門科は神経内科か耳鼻科か皮膚科であると伝えると、地元(北九州市)の公立病院の皮膚科に友人がいるので、すぐに治療が受けられるかどうか電話してきますと言って、私の記したメモを持って中座した。すぐに戻ってきて、「そのアシクロビルという薬をもらって服みながら、すぐに九州に戻りなさいといわれました」との返事。
アシクロビルの処方
Rp. | ゾビラックス |
1回800mg×1日5回 投与は1日量で、4,000mgのみ |
後日談
この患者さんは、北九州市の公立病院を即日に受診したが、受診時には顔面神経麻痺が出現していたと、主治医から返事をいただいた。ただちに入院してゾビラックスの投与を受けたが、幸いにも重篤化しないで、2週間で退院したという。私たちにとって嬉しかったのは、後日、この患者さんから、ウイスキーと手紙が届いたことである。もちろん、ウイスキーよりも手紙の内容が嬉しかった。入院中の回診のときに皮膚科の部長さんが若い先生たちに、「歯医者さんが一目で診断をつけて治療を始めたので、この程度のことですんだのを認識するように」と言ったという旨の礼状であった。
◆◆◆ | 歯科医の知っておきたい 医学常識・肺結核 |
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図1 本項に説明したよりも重症の水疱が右側の口蓋に多発している帯状疱疹の例 |
図2 右顔面の帯状疱疹後の瘢痕。この症例では右の下顎の歯が全部、抜け落ちた |
図3 帯状疱疹後に下顎骨から分離した腐骨 |