◆根管形成器具
手用切削器具 |
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機械切削器具 |
東京医科歯科大学歯学部
歯科保存学第3講座 |
吉岡隆知 |
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須田英明 |
手指による根管形成は時間がかかり、術者の疲労も大きい。この問題を解決しようと、多くの機械切削器具が考案されてきた。近年、ニッケルチタン(NiTi)ファイルが登場して機械切削による根管形成が改めて注目されている。今回は根管形成におけるステンレススチール製の手用切削器具とNiTi製の機械切削器具について比較検討してみる。
1.手用切削器具
1)器具
リーマー、Kファイル、Hファイルが代表的なものであるが、これらはさまざまな断面形態を有している(図1)。ISO規格ではファイルの先端径は0.5または1mmずつ増加する。このため、#10から#15に移るときの先端径の増加率は50%にもなり、根管の湾曲に追従しづらかった1)。この点、ステンレススチール製手用プロファイルは先端径の増加率が29%と一定になっている。ファイルの号数を上げていっても、細く湾曲した根管に無理なくしなやかに追従するとされている。
手用切削器具の使い方としては、正方向に連続回転させて象牙質を削り取るリーミング(図2)と、上下運動で象牙質を掻き上げるファイリング(図2)が一般的である。リーマーは主にリーミング操作で、Hファイルはもっぱらファイリング操作で使用される。Kファイルは両方の操作で用いることができる。また、Kファイルには図3のように、ウォッチワインディング、ターンアンドプルなどの使い方2)もある。
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図1 |
各種手用切削器具の横断面。 Kファイルは、太さにより断面がリーマーと同じ三角形になる場合がある。また、リーマーも細いサイズは正方形をしている |
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図2 |
手用切削器具の使い方(基本)。左:リーミング、右:ファイリング |
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図3 |
Kファイルの使い方(応用)。これらの方法はファイルの先端に負荷をかける使い方なので、破折に注意しなければならない。左:ターンアンドプル(turn
and pull)。ファイルを約1/4回転させて根管壁に軽く食い込ませ、そのままファイルを引き上げる方法。右:ウォッチワインディング(watch
winding)。軽い力で約30〜60゜正回転で根管壁にファイルを食い込ませる。次に同じ角度だけ逆回転させて象牙質を削り取る。この腕時計の竜頭を巻くような動作を繰り返す |
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2)髄室と根管の形成法
歯髄腔を歯冠部(髄室)、根管上部および根管下部の3部位に分け、歯冠側から順番に拡大形成すると効率がよい(
図4)。歯冠部の形成はいわゆる髄腔開拡で、高速切削により行う。根管上部はゲイツグリッデンドリル(GGD、
図5)などで形成する。とくに根管口付近は修復象牙質の添加により狭窄し、また、ほとんどの根管は緩やかに湾曲している。そのため手用器具の根尖への到達が容易ではないことが多いので、根管上部をあらかじめ広げておく(フレアー形成)。最後に根管下部を手用切削器具で形成する。
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図4 |
歯冠部は高速切削、根管上部は低速切削、根管下部は手指による拡大形成を行う。左側はGGDの使用基準 |
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GGDは主根管と同じ方向に挿入し、主に引き抜く方向で根管壁を少しずつ削る。主根管の方向とGGDの軸方向が一致しない場合、GGDは基部で折れてしまう。GGDのサイズと使用する基準を
図4に示す。 #4〜6は湾曲の外側に根管口を広げたり、髄腔開拡の修正に使用する。GGDは#35のファイルが無理なく楽に入る位置を基準に使うとよい。狭窄した根管ではGGDの使用に先立ち、根管上部を手用切削器具で広げておく。手用切削器具を用いた根管形成法も多種多様である
3)。まっすぐな太めの根管は、ファイルにより作業長を変えないスタンダダイズド法で形成しても問題ない。ステップバック法はまっすぐな根管、湾曲根管、細めの根管など、ほとんどの根管で適用することができる。ステップバック法で根尖部の形成に使用したもっとも太いファイルをマスターアピカルファイル(MAF)という。ファイルは細いほうからMAFまでは順番に使用し、作業長まで形成する。MAFより太いファイルは0.5〜1mmずつ作業長を短くしていく。なお、次の号数に移る前に、そのつどMAFが根尖まで穿通することを確認しておく。
2.機械切削器具
NiTiファイルは切削効率が悪い、あるいは折れやすいという欠点を補うためにファイルのデザインや根管形成法に工夫が凝らされている。また、器具により使用する回転数も指定されている。ファイルの回転には小刻みな上下運動(ペッキングモーション)を加えて使用する。
1)クァンテック(
図6)
米国のMcSpaddenにより考案されたファイルで、正回転での切削効率を高め、削片が根尖方向に押し込まれず、歯冠側へ排出されるように設計された断面形態に特徴がある(
図7)。ファイルの先端径およびテーパーの異なる10種類(#1〜10)を順番に使用して、根管形成を行う。まず、06(60/1000mm)テーパーの#1で根管上部を拡大し、根尖へのアクセスを容易にする。次に02(20/1000mm)テーパーの#2から4を用いて根尖まで拡大した後、#5〜8で同じく根尖まで拡大しテーパーを06まで順次広げる。必要に応じて、さらに02テーパーの#9、#10まで拡大して終了する。
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図6 |
クァンテック |
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図7 |
NiTiファイルの横断面。左:プロファイル、右:クァンテック |
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2)NiTi製エンジン用プロファイル(図8)
ステンレススチール製手用プロファイルと同様に29%の先端径増加率となっているが、テーパーは04である。なお、根管の断面形態はUファイルと同様である(図7)。このファイルは後に記すクラウンダウン法で使用することが推奨されている。 |
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図8 |
プロファイル |
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3)トライオートZX
トライオートZX
4,5)はNiTiファイル専用に開発されたコードレスハンドピースである。根管内にファイルを挿入し、回路が形成されると自動的に約300rpmで回転を始める。ハンドピース内に根管長測定器(ルートZX)の回路が内蔵されている。根尖にファイルが到達したとき、あるいはファイルにかかるトルクが設定値を超えた場合、ファイルは逆回転を始める。このことにより、ファイルの突き出しやファイル破折を防止するように設計されている。
4)クラウンダウン法(crown−down pressureless technique)
クラウンダウン法
6)は元々は手用器具での根管形成に考案された方法で、太いファイルから細いファイルへ順番に使用することと、根尖方向へあまり圧をかけないでファイルを使用することが特徴である。太いファイルから使用し、先に進まなくなったら1サイズずつ細いファイルに移っていく。一番細いファイルでも作業長に達しない場合は再び太いファイルに戻る。ファイルの交換が煩わしいが、変形しやすい細いファイルを無理に使わなくてもすむ。
根管の穿通性や方向を調べるのは手用切削器具を用いたほうがよい。#10の細いファイル、あるいは#20程度の腰のあるファイルを用いる。NiTiファイルは超弾性のため湾曲を与えることが困難である。NiTiファイルは根管の湾曲方向を確認するのには向かないといえる。
ステンレススチール製ファイルは#25より太くなると急に柔軟性が低くなり、プレカーブをつけないと湾曲に追従しにくくなる。手用器具では穿通が難しい湾曲根管でも、NiTiファイルが難なく穿通してしまうこともある。湾曲根管の場合、NiTiファイルを用いた機械切削が有利なことが多い。
NiTiファイルはステンレススチール製ファイルに比べて折れやすいといわれている。根尖の急な湾曲に追従して根管に入ったままファイル先端1〜2mmが破折してしまうこともある。NiTiファイルはとくに前兆がなく突然に根管内で破折することが多く、ファイルの変形を見つけたときには廃棄して新しいものを使わなければならない。NiTiファイルは破折しやすいため、ファイルの使い方、力のかけ方など、使い方になれる必要がある。一般に機械切削器具を使って手用切削器具より術者の疲労を軽減するためには、機械切削器具の使用法に熟達する必要がある。
NiTi製の機械切削器具にはGGDに似た形態のライトスピードが登場し、クァンテックやプロファイルの形態・使用法も改良されつつある。手用切削器具の使い方はある程度確立されているが、NiTiファイルは形態も使い方もまだまだ流動的である。
現在、求められる根管形成後の根管形態は、根尖部を0.3〜0.4mmφ程度、根管口はGGD#4(1.1mmφ)程度の大きさとし、根管の本来の形態を保ったまま、その間を漏斗状に滑らかにつなぐ形態であろう(図9)。根管は筒状の細長い管ではなく、フィン、イスマス、側枝などの構造を有する複雑な形態をしており、さらに修復象牙質の添加などがあって凹凸が大きい。このような形態を根管用器具だけで清掃することは不可能である。NaClOやEDTAなどを用いた根管洗浄7)を必ず併用して有機質およびスメアの除去をはかりつつ、根管内を無菌化する必要がある。根管形成は、あくまで根管充填のための形態の付与が主である。必要最小限の歯質除去による、根管充填のための便宜的な形態の付与という目的が達成されるなら、どの方法で形成してもよいわけである。手用器具である程度形成した後、仕上げに機械切削器具を用いるという使い方もある。過剰な根管の拡大は歯を脆弱化させるだけなので慎まなければならない。
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図9 |
根管の湾曲が維持され、適切なテーパーの付与された根管形成 |
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【参考文献】
1) |
吉岡隆知、須田英明:歯髄ならびに歯内療法の最新トピックス(1)、歯界展望、88(2):401〜411、1996. |
2) |
Cohen S, Burns RC.:Pathways of the pulp. 7th ed, 213〜255,
Mosby, 1998. |
3) |
荒木孝二:根管拡大形成のチェックポイント、デンタルダイヤモンド別冊、19(13):30〜35、1994. |
4) |
小林千尋:エンジンとニッケルチタンファイルによる根管形成 雑感(1)、日歯内療誌、18(2): 139〜144、1997. |
5) |
小林千尋:最近の歯内療法(その1)、日本歯科医師会雑誌、50(10):973〜977、1998. |
6) |
Morgan LF, Montgomery S.:An evaluation of the crown-down
pressureless technique, J Endodon, 10(10):491〜498、1984. |
7) |
吉岡隆知、片岡博樹、須田英明:EDTAを用いた根管洗浄、日本歯科評論、669:175〜180、1998. |
※過去に制作したものなので、掲載内容が現在と異なる場合があります。