◆インプラント上部構造装着法
スクリュー固定式 |
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セメント合着式 |
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オッセオインテグレーションの予知性が高まった今日、オッセオインテグレーテッドインプラント治療がポピュラーに行われるようになった。最近は、上部構造への機能性、審美性のさらなる追及が続けられている。現在、インプラントの上部構造は、天然歯との連結をできるだけ避けたほうがトラブルが少ないと考えられるようになり、単冠もしくはインプラント同士の連結冠が選択される傾向にあると思う。ルートフォームのインプラントシステムの構造は、一般的にフィクスチャー(歯根部)とアバットメント(支台部)から構成されており、そのアバットメントの上に上部構造が装着される。
アバットメントと上部構造の装着法には、大別して、術者可撤式(スクリュー固定)、セメント合着式、患者可撤式が挙げられる。本稿では、患者自身では取りはずすことのできないスクリュー固定式(
図1)とセメント合着式(
図2)のアバットメントを用いる固定法について比較検討したいと思う。
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図1 |
スクリュー固定式アバットメント(ステリオス社製)。下部よりフィクスチャー、アバットメント、ブリッジコーピング(プラスチック製)、スクリュー。ブリッジコーピングの上にワックスアップを行い、鋳造して上部構造をつくる |
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図2 |
セメント固定式アバットメント(ステリオス社製)。下部よりフィクスチャー、アバットメント |
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2回法インプラントシステムを用いた場合、治療の流れ
1)としてフィクスチャーを埋入して、数ヵ月後に開窓手術(2回目の手術)を施行する。その際、アバットメント貫通部の余剰歯肉の切除を行い、アバットメントと接触する歯肉の治癒を待つ期間中はヒーリングアバットメントを装着する。歯肉の治癒が確認された後、最終的なアバットメントを選択することになる。
スクリュー固定式は、歯科医師がスクリュー(ネジ)を締めることにより上部構造の装着ができ、緩めることによりはずせる。一方、セメント合着式は合着用セメント(グラスアイオノマーセメント、リン酸亜鉛セメント、接着性レジンセメントなど)により上部構造を装着するため、患者も歯科医師も取り外しが不可能となる。
近年は1歯欠損に対し単独植立を応用するケースも行われるようになったため、フィクスチャーとの連結部に6角形や8角形のアバットメント回転防止機構が付与されたものや、15°、25°などの角度付きのアバットメントが用意されたインプラントシステムも多い。また、とくに審美性を考慮する場合、自然なエマージェンス・プロファイル獲得のために用いられるアバットメントも臨床応用されている
2)。
ここでは、臼歯部の数歯欠損症例に対し、回転防止機構が付与されておらず角度の付いていないストレートのスクリュー固定式とセメント合着式のアバットメントを使用したケースを参考に、それぞれの特徴を比較してみる。
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スクリュー固定式とセメント合着式の上部構造の大きな差は、その作製法にあると思う。スクリュー固定式の場合は、印象法も複雑
1)で、アクセスホールを付与した上部構造を作製する(
図3a、
b)。一方、セメント合着式は、アバットメントを装着した状態で印象を採り、天然歯への補綴物と同様の技工法により上部構造を作製する(
図4a、
b)。
a |
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b |
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図3 |
a:ブリッジコーピングへのワックスアップ
b:完成したメタルフレーム、アクセスホールからドライバーを試入している |
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a |
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b |
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図4 |
a:セメント合着式アバットメントを装着した口腔内
b:その上に上部構造(補綴物)をセメント合着した状態 |
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スクリュー固定式の長所は、上部構造を破壊することなくはずせるので、アバットメントや上部構造の清掃が可能なことである。ちなみに、最近は歯肉と接触しているアバットメント(チタン製)は、ティッシュシーリングの観点から、インプラント周囲炎などを併発していない限りは無理にはずす必要がないという考えもある。また、多数歯欠損症例などにも応じられ、平行性に問題がある場合や、さらには将来的に口腔内の状態が変化した場合、歯数の変化に対応した上部構造の設計変更が容易であり、インプラント周囲組織の治療にも対応できる。
スクリューの緩みや破折に関しては、これが長所であるとするものと、短所であるとするものに見解が分かれる。長所をとらえれば、インプラントには歯根膜がないので、緩圧機構システムを備えていないインプラントに過度の咬合圧が加わった場合、スクリューの緩みや破折が生じることが、フィクスチャーへのダイレクトなダメージを軽減させ緩衝になるという考えになる。短所をとらえれば、臨床的にはスクリューが緩んだ状態で長期間咬合することにより、インプラント周囲炎を生じたり、ましてやスクリューが交換不可能な状態で破折しては困ることになる。近年は、トルクレンチ(
図5)を用い、一定の力(35N・cm程度)でスクリューを締められるようになり、緩みづらくなったようである。また、単冠ならまだしも連結冠では、上部構造のアバットメントへの高い適合性が要求される。さらには、口腔内操作も時計の部品を組み立てているような、かなり複雑で細かなものとなる。上部構造とアバットメントに間隙などが存在する場合は、プラークの侵入はもちろんのこと、頻繁なスクリューの緩みや破折を生じることがある。通常では、アクセスホールを咬合面に設定し、コンポジットレジンなどで充填するため、レジンが咬耗したり対合歯とのコンタクトが消失したり、審美的に問題となることがある(
図6)。その回避法として、上部構造の舌側からスクリュー固定することも行われている(
図7a、
b)。
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図5 |
35N・cmの一定の力でスクリューを締められるトルクレンチ(ステリオス社製) |
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図6 |
アクセスホールにコンポジットレジンを充填した上部構造 |
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a |
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b |
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図7 |
a:3本のインプラントをミリングバーで連結した状態
b:ミリングバーの上に上部構造を装着し、舌側からスクリュー固定した状態 |
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セメント合着式の長所は、術式が比較的簡単で、天然歯でいうメタルコアのように、対合歯とのクリアランスやインプラント同士の平行性を考慮し削合ができることである。また、上部構造にスクリュー固定のためのアクセスホールを必要としないため、コンポジットレジンの咬耗や審美性も問題にならない。短所としては、上部構造をはずす必要がある場合、壊さねばならない点などが挙げられる。
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天然歯に補綴物をスクリューで固定するという概念はないが、インプラントにはある。それは、先に述べたようにインプラントには歯根膜が存在しないため、天然歯とは異なる力学的考慮をせねばならぬという発想や清掃性の面から生まれたものと考える。清掃性を重視すると、筆者は、前歯部などでは審美性を考慮する必要から上部構造のマージンは歯肉縁下に設定することが多くなるので、定期的に歯肉縁下部の清掃と精査が行えるスクリュー固定式が適していると考える。それに対し、臼歯部など、とくに審美的要求がなく、上部構造のマージンを歯肉縁上に設定するケースでは、セメント合着式を選択したいと考える。いずれにしろ、筆者自身、スクリュー固定式とセメント合着式のどちらのほうが長期臨床成績が良いかの報告を待つところである。
今回、上部構造のスクリュー固定式とセメント合着式を比較してきたが、最近はその両者の長所を併せもった上部構造装着の傾向がみられるようになってきたようである。つまり、コーヌスクローネの内冠と外冠の関係のような高い接合精度でセメント合着用のアバットメントに対し上部構造を作製し、それを仮着用セメントで合着(図8)して、必要なときにリムーブできるようにしておく方法なども行われるようになった。それにより、アクセスホールを設ける必要がなくなり、審美的にも満足できる。現時点では、術者可撤式として、スクリュー固定法以外に仮着用セメントによる合着法が加わったといえよう。
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図8 |
仮着用セメントで合着を行うアバットメントと上部構造。下部はフィクスチャー(畑中卓哉先生提供) |
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謝辞:サンプル提供のご協力をいただきました株式会社ヨシダ器材事業部インプラント課ならびにFit Inデンタルラボラトリー代表・畑中卓哉先生に深謝いたします。
【参考文献】
1) |
黒山祐士郎:骨内インプラントの治療の流れ、デンタルダイヤモンド、21(2):52〜57、1996. |
2) |
Fereidoun Dafary:The bio-esthetic abutment system(An
evolution in implant prosthetics)、J of dental symposia、vol 3:10〜15、1995.
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※過去に制作したものなので、掲載内容が現在と異なる場合があります。