A | 1.白血病 |
疾患の概略:白血病は幼弱な血液細胞が骨髄で腫瘍化し、無制限に増殖する疾患である。その発生機序は、一般的には遺伝子や染色体の損傷により発症するとされるが、その原因として放射線や抗がん剤が関与することもある。本症例は、急性骨髄性白血病の診断であった。急性白血病は週単位で進行することが知られている。急性白血病の3大徴候は3系統(白血球、赤血球、血小板)の正常造血の抑制による発熱、貧血、出血傾向である。口腔では、歯肉腫脹、口腔粘膜の潰瘍、歯肉・口腔粘膜からの自然出血が代表的である。診断は問診、臨床症状、血液検査、骨髄検査などの結果に基づいて行われる。
診断に至った経緯:本症例では、受診時に38.2℃と発熱を認めてはいたものの、他2つの徴候はあきらかではなかった。口腔内は、下顎右側臼後部舌側の他、歯間乳頭部にも歯肉の壊死を疑う白色変化を認めた。
筆者は大臼歯部の腫脹感、また発熱、全身倦怠感があることから、歯性感染症による体調不良ではないかと考え、パノラマX線撮影、CT検査、血液検査を行った。パノラマX線写真、CT画像ではあきらかな異常所見は認めなかったが、芽球が87%であったことから造血器腫瘍を疑い、即日血液内科に紹介したところ急性骨髄性白血病の診断に至った。
治療法:おもに多剤併用化学療法が行われ、適応があれば造血幹細胞移植を行う。
診断方法:急性白血病の初期症状は、全身的には発熱、全身倦怠感が多く、口腔内では歯肉の出血、腫脹、粘膜の壊死、潰瘍形成が多くみられる。出血傾向を認めた場合には比較的早期に診断されることが多い。一方で、粘膜の炎症や良性腫瘍を疑った場合には診断までに時間がかかることがある。
本症例のように、口腔内に出血はなく、症状的には智歯周囲炎に類似した所見であっても、注意深い口腔内の観察と全身所見を勘案し、白血病が背景に潜んでいる可能性を考慮して全身スクリーニングを目的に血液検査を行う必要がある。
- 1)榎本昭二,他:最新 口腔外科学 第5版.医歯薬出版,東京,2017.
- 2)白砂兼光,他:口腔外科学 第3版.医歯薬出版,東京,2010.
- 3)内山健志,他:サクシンクト口腔外科学 第3版.学建書院,東京,2011.
- 4)日本がん治療認定医機構教育委員会(編集・発行):JBCT がん治療認定医教育セミナー テキスト 第11版.
- 5)丸川恵理子,他:口腔内に初発症状を呈した急性骨髄性白血病の3例.日口外誌,56(5):323-327,2010.
<<一覧へ戻る