１．味覚低下
　 味覚障害のうち、味覚低下には、完全な味の喪失である無味覚症、味を感じにくい（あるいは薄く感じる）味覚減退・味覚鈍麻があります。味覚低下の明らかな原因が不明の特発性味覚障害では、血清亜鉛の低下を認める場合が多いとされ、神経性のものとしては、手術等による末梢神経障害や、中枢性のものもあります^１）。
　 全身疾患に関連するものとしては、妊娠や糖尿病、甲状腺機能低下症等の内分泌疾患や高血圧症、胃疾患や肝疾患、腎疾患の他、ビタミンＡやＢ１、Ｂ２欠乏、ニコチン酸欠乏等があります。薬剤による味覚低下の多くは、薬剤の官能基と血中亜鉛のキレート結合により亜鉛の欠乏が生じるとされています^２）。また、唾液分泌低下や口腔乾燥症も、味覚障害の原因となります。緊張状態の持続やストレスでも唾液分泌が低下しますので、生活環境にも考慮が必要です。
　 味覚は舌乳頭に存在する味蕾で感じるとされており、これに知覚や温度感覚、嗅覚等も影響しています。味蕾が存在する舌乳頭が貧血等で萎縮すると、これに伴って味覚低下が生じやすくなります。味蕾の神経は、水に溶けるものしか感じないので、口腔乾燥等で唾液が少なくなると味覚低下が生じます。
　 ２．肝硬変との関連性
　 さて、ご質問の肝硬変との関連ですが、肝硬変の患者さんでは、循環血漿の増加、脾機能の亢進、赤血球膜の脂質異常による溶血、血清鉄や葉酸の欠乏、消化管出血等が原因で二次性貧血がみられます。そのため、舌乳頭萎縮や平滑舌を示す傾向があり、味覚低下を生じる可能性が高くなります。
　 一方、唾液分泌については、肝硬変の二次性貧血が生じると、唾液分泌能が低下して唾液量の低下を生じることがあります。また、肝硬変の患者さんでは腹水が生じるため利尿剤を使用することがありますが、利尿剤は尿量を増加させることで腹水を軽減する反面、唾液分泌を減少させて口腔内乾燥を引き起こし、強い口渇に苦しむ患者さんもいます^３）。
　 ３．味覚低下に対する治療
　 一般的には、問診及び口腔診査、味覚検査等で味覚異常の原因を判断して、原疾患と関連している可能性があれば、その治療を行います。ご質問の肝硬変の患者さんでは、専門医と連携した治療が必要になりますが、二次性貧血の場合は、貧血を改善する漢方薬の使用で舌乳頭が改善して味覚障害が改善する場合もあります。
　 口腔乾燥と関連が考えられる場合や唾液分泌低下がみられる場合は、口腔乾燥に対する治療を行います。唾液分泌が改善されることで、味覚障害が改善する症例は多いです。唾液分泌改善に効果のある薬剤としては、サリグレン®やエボザック®、フェルビデン®等がありますが、シェーグレン症候群のみが適応です。それ以外の疾患や症状には、漢方薬が有効で、白虎加人参湯や五苓散、麦門冬湯、柴胡桂枝乾姜湯、十全大補湯等が口腔乾燥症に効果があります^４）。対症療法としては、洗口液絹水®等の保湿成分を含有した口腔保湿剤を人工唾液として使用することも臨床効果があります。
　 いずれの場合も、肝硬変を治療している主治医と情報交換しながらの対応が、患者さんにとって大切になるでしょう。

【参考文献】
１）	早津良和：口腔・舌の病変，運動障害（５）味覚異常．医学を学ぶ人の歯科口腔外科テキスト．都 温彦，香月武，他（編），医学情報社，東京，125-126，1996．
２）	柿木保明：実践歯学ライブラリー　味覚障害の診断とその対応．デンタルダイヤモンド，36（２）：17-28，2011．
３）	縣 沙織：利尿剤服用患者の口渇に対するケアの検討梅酢による唾液分泌促進の効果．平成20年度福井県立病院看護部研究発表集録，90-92，2008．
４）	高橋哲，柿木保明：口腔乾燥症における薬物療法．デンタルハイジーン別冊2003　唾液と口腔乾燥症．柿木保明，西原達次（編著），医歯薬出版，東京，78-81，2003．

柿木保明●九州歯科大学附属病院口腔環境科／
同大学摂食機能リハビリテーション学分野