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歯科医師が病気を見つけるとき 14
●東海大学医学部口腔外科学教室 佐々木次郎 + 後藤 潤
口内炎 天疱瘡
 天疱瘡(Pemphigus)という病気は、進行すると全身に水疱を生じてきて、致死率が高い。この病気は、初発は口内炎である。図1に示すような全身水疱を生じた臨床例は、私たち歯科医師が視ることはないが、初発期の口内炎から天疱瘡を疑ってみることは、現代の歯科医師の義務である。

 筆者の佐々木はいままでに1例しか発見していないが、後藤は何例も発見している。後藤は口腔粘膜疾患を専門にしているため、病院内外の他科の医師や開業の歯科医師から口内炎の患者さんの依頼が多いためであろう。実際のところ、難しそうな口内炎は私自身も後藤に診察をお願いしている。
◆◆◆ 天疱瘡の成り立ち ◆◆◆
 この疾患は自己免疫疾患である。自分自身のもつ免疫グロブリンG(IgG)が強すぎて病変を起こす。
◆◆◆ どのような口内炎で
天疱瘡を疑うのか
◆◆◆
 図2は後藤の経験した症例である。39歳の大工さんで右の臼後三角に「びらん」が認められる。これだけで天疱瘡と診断するわけにはいかない。しかし、天疱瘡を疑うことはできる。あやしいと思ったら、ためらわずに優れた皮膚科医に診てもらう。この症例は、後藤の初診時には、口内炎だけであった。免疫の病気も考えられるからといって裸になってもらって全身の皮膚をみたが、皮膚病変はなかった。3週後には図3のように顔面に病変が出現し、次第に全身に拡大したと、皮膚科から報告を受けた。皮膚科医に天疱瘡ではないと診断されたらありがたいことであり、ふたたび歯科医師が自分で口内炎の治療をすればよい。
図1 体躯の水疱  図2 初診時の口腔内所見 図3 初診から3週後には顔にも
◆◆◆ 皮膚科での診断要点 ◆◆◆
1 皮膚科の医師が臨床診断能力に優れていること。
2 水疱液の塗抹標本(ツァンク細胞)。
3 血中抗表皮細胞間抗体価の測定。
4 皮膚組織を5mm×5mmでバイオプシーして、抗表皮成分自己抗体を蛍光抗体染色法で視る。
 3と4の方法は、健康保険で認められていない。SRLのような技術をもっている検査センターへサンプルを送って検査してもらう。非常に高額な検査であるが、初期発見は致死率を低くするので重要である。皮膚科に依頼する際には、患者さんにこのことをインフォメーションしておくのも礼儀であろう。
◆◆◆ 皮膚科での治療 ◆◆◆
 入院のうえ、副腎皮質ステロイド剤の大量内服を開始する。
◆◆◆ 天疱瘡にまつわる暗い想い出 ◆◆◆
 東海大学病院に勤務する技師が口内炎で受診し、後藤が診て皮膚科へ依頼した。疑ったとおりの天疱瘡で、やがて全身に拡大した。副腎皮質ステロイド剤が奏功せず、シクロスポリンAを投与したが、効かなかった。高知医大の皮膚科がもっとも治療が優れているとのことなので、ヘリコプターで運んだが、やがて亡くなられた。
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