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TopQ&A法律 > 抜歯中止の賠償責任(2012年12月号)
Q&A
法律(2012年12月号)
Q 抜歯中止の賠償責任
●患者に抜歯を試みたところ、歯根破折を来してしまい、当院では残根がとれなくなってしまいました。そのため、抜歯を中止し、大学病院の口腔外科で抜歯治療を受けてもらうことになったのですが、患者から口腔外科での治療費、通院交通費、休業損害、慰謝料の賠償を請求されました。この場合、私には治療時の過失が認められ、賠償責任を負うのでしょうか。また、賠償の交渉に際し、気をつけたほうがよい点があればお教えください。
──長崎県・Tデンタルオフィス
A
  抜歯中に歯根破折を来し、残根が自力では除去できなくなったからといって、必ずしも過失と判断されるわけではありません。抜歯を試みた対象歯の形状、歯質、または抜歯時に患者さんが不意に動いたなどの患者側の事情により、術者に落ち度がなくとも歯根破折する場合もあり得ますので、何らかの手技上のミスがない限りは過失とは判断されないのです。
  仮に過失が認められた場合、そのため患者さんに生じた損害を賠償する必要があります。もっとも、その範囲は、あくまで過失と相当因果関係のある範囲に限ります。
  具体的には、ご質問にある口腔外科での治療費や通院交通費は、当然に相当因果関係のある損害と言えます。
  休業損害については微妙なところですが、患者さんの職種、地位、業務内容、受けた侵襲の程度などに照らし、口腔外科での治療によって休業を余儀なくされたと評価し得るのであれば、休業損害も相当因果関係の範囲内と言えます。休業証明書などにより、休業の事実及び休業損害としての相当額を客観的に確認することも必要です。
  慰謝料については、発生するとしてもせいぜい10〜20万円程度と思われます。
  賠償の交渉に際して気をつけることですが、一切の問題を解決したときでない限り、金銭を支払わないということです。
  筆者の経験から、治療中に予期せぬ事態が生じたこと、それに起因して患者さんが立腹して金銭の支払いを要求してきたこと、時には患者さんの配偶者や知人と称する素性不詳の者が来院して騒ぎ立てたことに冷静さを欠き、見舞金などのよくわからない名目で漫然と金銭を支払ってしまう先生が時々いらっしゃいます。まずはその場を収束させたいというお気持ちは十分にわかるのですが、五月雨式の支払い方は何度も金銭の支払いを要求される危険があるため、避けるべきです。
  過失のあることが明らかな場合であれば、後医の治療費や通院交通費などの、明らかに相当因果関係のある損害であり、かつ、金額が客観的に明白な費用については先に支払っても問題ないこともあります。しかし、基本的には示談が成立し、「歯科医師の先生と患者さんの間には示談書に定めるもののほか何らの債権債務のないことを相互に確認する」、「本件に関しては本示談をもって円満に解決し、以後、患者さんは先生に対して名目如何を問わず金銭の支払いを請求しない」などの清算条項を入れた文書を取り交わさない限りは、金銭を支払うべきではありません。
  また、慰謝料などの抽象的なものについては、法外とも思える金額を請求される可能性もありますので、妥当な金額か否か判断に困った場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。

金田 英一銀座誠和法律事務所

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