本のエッセンス|まえがき:初伝 リマウントの塩田メソッド 軟化パラフィンワックス臼歯部咬合法

本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行に寄せて」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行に寄せて」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、初伝 リマウントの塩田メソッド 軟化パラフィンワックス臼歯部咬合法です。

まえがき

 本書のタイトルは、当初『初伝~高すぎず大きくもなく真ん中をバランスよくが歯合わせの道~』にしようと思っていました。その後、いろいろな方に相談したところ、『初伝~リマウントの塩田メソッド“軟化パラフィンワックス臼歯部咬合法”』がよいのではないかとなり、このタイトルに落ち着きました。
 臨床を10年以上経験されている先生は、「初伝」より「奥伝」なら読んでみようと思うのだけれど……と、ためらわれるかもしれません。しかし、「初心」にかえってみるのもよいかと思い、とりあえず読み進めてみてください。
 読み進めますと「実はそうなんだよな」と共感してくださることもあるかもしれません。そのなかで「何が大切か」ということに気づくことができればとの思いもあります。
 時に、私は「できないことはしない」という悟り?的判断から、私にできないことはしないようにしています。そんな私を天の邪鬼と思うかもしれませんが、生来、わがままであることは自覚しています。
 世の中の多くのまじめな方は、自分にはできないとあきらめることなく、とにかく一生懸命やろうとするでしょう。本来はそうでなければならないと思います。しかし、できないとあきらめるという判断は、多くの場合、正しいように私は思います。得てしてその努力が徒労に終わる経験をさせられます。そして、時に努力をしない人を作ってしまいます。
 できないことに時間を費やすのは、やはり無駄ということになりかねません。この見極めが大切で、それがうまくできるようになると、本来、力を入れなければならないことに気づき、そこに全精力を傾けるようになります。
 本書の内容について、まじめな先生からすると「もっと真摯に物事に対して……」とお叱りを受けるかもしれません。しかし、私としては決して不真面目でもなければ、ましてや大切なことから逃げたりはしていません。
 さて、咬合が大切だと知っていても、また咬合をハズしたら義歯はうまくいかないと確信している先生でも、咬合紙での咬合のチェックは難しいだけでなく「できない」と知らないのか、丁寧な咬合調整を情熱をもって行っておられるようです。
 私の場合、「咬合紙では咬合のチェックはできない」という文献に接したことはありません。もちろん、次のようなことを書かれている高名な先生はおられます。
「咬合が合っていないケースは、正しい水平的顎位を咬合して見せてはいただけない。高い部位に寄ってズレたという表現をしたり、逆に低いほうに流れるというかズレることも体験させられる。つまり、咬合紙で正しい印記ができないことがかなりある」
 したがって、咬合紙を使ってもよい情報は得にくいことになります。咬合紙を両臼歯に入れてチェックすれば……、と考える方もおられますが、それとてやはり上手にはいかないようです。
 さて、多くの補綴家は咬合調整の重要性を語られていますが、すべてのと言ってよいほど咬合紙を用いて咬合調整をされているようです。そこから脱却することができると嚙み合わせがよくなると思います。
 その一つの手段として、私はリマウント法「軟化パラフィンワックス臼歯部咬合法」をかねてより提唱してきました。そのことを書いたのが本書です。
 初心者といわれる学習者が難解な文章の樹海のなかで迷子になり、学習を断念している方は想像以上に多く、その方々に少しでも誤解を解く道を示せればという理想?で書かせていただきました。
 もちろん、本書の座本はなく、浅学の私のある種の思い込みで書かれているところも多いことをまずはお断りし、お許しを乞いたいと思っております。
 しかしながら、いわゆる成書に書かれている内容で、確かにそうかもしれないと思っても多くの術者はそのとおりに実行できていません。よしんば実行できる方がいてもほんのわずかであり、ほとんどの方々は絵に描いた餅で、患者さんとともに喜びを享受できないこともあります。
 したがって、多くの学習者ができないと思われることは除外しました。と書きましたが、逆に本題から逸れた“ことわざ”や私が日常ふっと思ったことなどの覚え書きがたくさんあり、義歯関係の本ではなくなってしまっている感もありますが、ある種の娯楽本的に読んでいただけましたらありがたく思います。

2022年 10月
塩田博文歯科 塩田博文

CONTENTS

著者略歴

塩田博文(しおだ ひろふみ)

1953年   福島県棚倉町生まれ
1980年   神奈川歯科大学卒業
1980年   福島県棚倉町で開業
1995〜96年 日本歯科医師会生涯研修セミナー「無歯顎の臨床」講師
2002年〜  塩田義塾 塾長

塩田博文歯科
〒963-6131 福島県東白川郡棚倉町新町52-1