Q&A 歯科医院で発見可能な認知症の初期症状とその対応|デンタルダイヤモンド 2022年7月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2022年7月号より「歯科医院で発見可能な認知症の初期症状とその対応」についてです。

当院の来院患者の多くは高齢者です。そこで、歯科医院で発見できる認知症の初期症状とその対応を教えてください。
⃝茨城県・Y歯科クリニック

認知症とは、一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障を来すようになった状態を指します。
 高齢化が進む昨今、定期的に来院する患者の認知症の初期症状を見つけ、適切な対応をすることが大切になります。

1.歯科医院で発見できる認知症の初期症状

 歯科医院で発見できる認知症の初期症状として、以下のようなことが挙げられます。

◦予約日時を間違えて来院する
◦予約時間の確認の電話をかけてくる
◦受付でお札を使って会計する(計算できない)
◦急に身なりが汚れてくる
◦口腔衛生状態が悪化する(意欲の低下、嗅覚・味覚の低下)
◦義歯が着脱できない。義歯の上下や方向がわからない(空間認知の問題)
◦治療後、患者の家族から「まだ帰宅していない」という連絡がくる

 歯科は医科と比べて、定期的に患者が来院し、コミュニケーションを多くとれます。したがって、医科よりも患者の性格や特徴、普段の様子などを把握しているといえます。その特徴を活かして、患者の変化を捉えられるようになりましょう。
 また歯科医院では、患者は3世代(もしくは4世代)にわたって定期的に来院します。そのため、認知症の初期症状を疑ったら、最近の様子などについて、その患者の家族に尋ねてみるとよいでしょう。

2.認知症の初期症状を発見した後の対応

 認知症の初期症状を歯科医院で発見した後、どのように対応すべきかを解説します。認知症の特徴として、時間をかけて徐々に症状が悪化し、運動機能や自浄作用が低下します。一方で、自身の口腔内の痛みなどの不調を訴えられなくなります。このことから、認知症患者の口腔内は長期的に著しく悪い環境に曝され続けます。
 現在は、高齢者の口腔内に自身の歯が残っていることが多くなりました。そのため、本人が少しでも状況を理解しているうちに歯科治療を進めておき、口腔内の問題を解決することが重要です(図1)。加えて、認知症を発見した後は、その患者の来院を途絶えさせないようにして、口腔内をできるだけ長く見守ることが大切です。
 そして可能であれば、地域の「認知症疾患医療センター」や「認知症サポート医」をその患者の家族に案内するとよいでしょう。そちらでは認知症に関する診断や症状への対応、相談などを行ってもらえます。
 以上のように、地域の専門機関に繫ぎつつ、歯科治療を積極的に行うことが重要です。

図❶ 認知症の程度における、受療能力と管理上の問題

菊谷 武
●日本歯科大学 口腔リハビリテーション
多摩クリニック

月刊 デンタルダイヤモンド
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