歯科におけるくすりの使い方:ChapterダイジェストPart1

デンタルダイヤモンド社のベストセラー書籍『歯科におけるくすりの使い方2023-2026』の各扉に掲載されている、Chapterの概要を特別公開!
昨今は、AMR:薬剤耐性が問題なっていますが、これらも含めて幅広く解説されています。「歯科医師のためのくすりの辞書」をぜひお役立てください。
今回の第一弾は、Chapter1~3までの概要を紹介しています。

Chapter1 感染症治療薬

 1997年発売のフロモックス®(セフカペン ピボキシル塩酸塩水和物)および2000年発売のジスロマック®(アジスロマイシン水和物)の2剤を20年以上処方し、強い副作用に脅かされることもなく過ごしてきたため、継続で処方されている歯科医師が多いと思われる。現在歯科における適正な抗菌薬は、ペニシリン系薬および第一世代セファロスポリン系で、フロモックス®、メイアクト®(セフジトレンピボキシル)、セフゾン®(セフジニル)、トミロン®(セフテラム ピボキシル)の第三世代セファロスポリンは推奨されていない。マクロライド系薬も耐性菌の増加から適正な使用ではない。
 歯周組織炎、歯冠周囲炎および顎炎に対して、アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム(オーグメンチン®配合錠125SS 、250RSおよびクラバモックス®小児用配合ドライシロップ)が2018年から適応外使用(顎関節症に対するロキソプロフェンナトリウム水和物〔ロキソニン®〕と同様の位置づけで、適応症として添付文書に記載はないが処方可)が認められている。矢野晴美先生(国際医療福祉大学 医学教育総括センター)が「⑥ペニシリン系薬」(p.038-043)で記載されているように、世界的に歯性感染症に対する標準薬であるアモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウムが添付文書上の適応疾患でない点については、今後歯科における処方頻度の実態を検討し、公知申請する必要がある。
 まず、本章の以下の内容について目を通していただき、基礎的内容についてはその後に読み進めていただければと考えている。

1)歯科における抗菌薬処方の実態
2)歯科口腔外科領域の感染症ガイドライン
3)適正な処方のペニシリン
4)不適正な処方の第三世代セファロスポリン、マクロライド系薬
5)歯科治療時における感染性心内膜炎予防投与

 「⑤歯科治療時における感染性心内膜炎予防」(p.034-037)では、感染性心内膜炎の予防投与の対象として人工素材で弁形成を行っている疾患(機械弁、人工弁、同種移植弁、経カテーテル大動脈弁治療法〔Transcatheter AorticValve Implantation:TAVI〕も含む)が挙げられている。超高齢社会の進行に伴い、大動脈弁狭窄症の潜在患者数は60歳以上で約284万人、そのうち手術を要する重症の患者は約56万人と推計されている。実際、心臓弁膜症治療に対してTAVIが多くの患者に行われている。TAVIの患者も感染性心内膜炎の対象疾患として考えたほうがよいとの指摘を忘れてはならない。

(金子明寛)

Chapter2 鎮痛薬・抗炎症薬

 レセプト情報・特定健診情報データベース(NDB:National Database of Health Insurance Claims and Specifi c Health Checkups of Japan)は、医療制度改革において医療費適正化を進めていく計画策定に用いるデータとして2006年に整備された。平成31年度のレセプト情報および平成30年度の特定健診情報に基づいて作成された第6回NDBでは、処方薬(内服)の外来(院外)で処方される解熱鎮痛消炎薬の性年齢別薬効分類別数量について、セレコックス®錠、カロナール®錠、ノイロトロピン®錠、ロキソニン®錠、トラムセット®配合錠などが上位を占めている。これらの薬物は、作用機序が異なることから、使用にあたっては、それぞれの薬物について適応や副作用など留意すべき点を十分に把握しておく必要がある。とくに、基礎疾患を有している患者が増加している現状を鑑みると、適正な薬物の選択にはアップデートされた情報の収集が不可欠である。
 そのような観点から、本章の前半は、化学的特性に従って非ステロイド性抗炎症薬を①酸性NSAIDs、②塩基性NSAIDs、③中性NSAIDsに分類し、それぞれに属する薬物についてまとめている。加えて、作用特性の視点から、④作用時間の違いと⑤剤形の違いからみたNSAIDsの使い方について解説している。アセトアミノフェンは抗炎症作用が弱く、NSAIDsには含まれないため、別に項を設けて説明している。
 本章の後半は、慢性疼痛に対する薬物療法に用いられ、近年、使用頻度が高まっているプレガバリンやガバペンチンをはじめとするCa2+チャネルα2δサブユニットに作用する薬物について説明するとともに、モルヒネに代表される麻薬性鎮痛薬を含むオピオイド受容体に作用する鎮痛薬について解説している。とくに、オピオイド鎮痛薬を実際に使用する場面が多い口腔がんなどに伴う疼痛に対する薬物療法に関しては、がん性疼痛として項を独立させて、WHOの3段階除痛ラダーならびにエレベーター方式に基づいた弱オピオイドと強オピオイドの使用方法や各種剤形による具体的使用法について解説している。

(小林真之)

Chapter3 骨修飾薬と歯科治療

 近年の新しい薬物の開発はめざましいものがあり、とくに分子標的薬の普及は多くの難治性疾患の治療に福音をもたらし、患者のQOLの向上に貢献している。当然のことながら、歯科医療を提供する側においては、それら新しい薬物の服用患者に対して安全・安心な医療の提供を行ううえで、薬物の作用機序を理解することが求められる。
 歯科医療提供者がより医療的な情報に関心を向けるべきとした意識をもつ転機となったのが、骨粗鬆症に対する治療薬・ビスホスホネートによる顎骨壊死の発生であったといえる。骨組織の代謝に影響を及ぼす薬物と、その薬物による顎骨の骨治癒への影響の理解が十分でなかったなかでBRONJ(Bisphosphonate related osteo necrosis of the jaw)という難治性の疾患が出現したことは、歯科医療界において、ある種のパニック状態をもたらしたといえる。一方で、BRONJを通して骨修飾薬を理解するにつれ、骨折の予防によってもたらされる患者のQOLの向上や健康寿命の延伸、さらにはがん治療成績の向上などの効果についての理解が進み、高齢者や悪性腫瘍患者への侵襲的治療となり得る歯科医療の提供について考える機会になったといえる。さらに、分子標的薬の骨疾患治療への導入により、歯科医師はさらに薬物の知識の必要性を感じていると思われる。
 いずれにせよ、顎骨の疾患を取り扱う歯科医師においては、骨修飾薬の最新情報についての理解が必須の事項といえる。
 本章では、具体的な骨疾患の治療についての項目を多く設定した。薬理学的な内容から臨床的な内容について極めて詳しく執筆してもらうことにより、患者が使用している各々の薬物の基礎的な作用や、それによって生じるさまざまな病態を理解し、適切な患者指導や治療提供に貢献できるものと考えている。

(飯田征二)

Part2は下記よりご覧いただけます。

刊行にあたっては、下記にて紹介をしております。あわせてご覧ください。

【編集委員】
金子明寛 (池上総合病院 歯科口腔外科)
富野康日己 (医療法人松和会理事長/順天堂大学名誉教授)
小林真之 (日本大学歯学部 薬理学講座)
飯田征二 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔再建外科学分野)
北川善政 (北海道大学大学院歯学研究院 口腔診断内科学教室)
一戸達也 (東京歯科大学 歯科麻酔学講座)
篠原光代 (順天堂大学大学院医学研究科 歯科口腔外科学)

https://www.dental-diamond.co.jp/item/1093