Q&A 刑法改正で「侮辱罪」はどのように厳罰化された?|デンタルダイヤモンド 2022年9月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2022年9月号より「刑法改正で「侮辱罪」はどのように厳罰化された?」についてです。

6月に刑法が改正され、「侮辱罪」が厳罰化されたと耳にしました。どのように厳罰化されたのか教えてください。また、インターネット上の誹謗中傷が侮辱罪にあたる場合があるとのことですが、具体的にどのような書き込みが該当するのでしょうか。茨城県・A歯科クリニック

2022年6月に成立した「刑法等の一部を改正する法律」のうち、侮辱罪の法定刑の引き上げに関する規定は同年7月7日から施行されました。
 これまでの侮辱罪の法定刑は「拘留または科料」でしたが、今回の改正で「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」に引き上げられました。「拘留」は刑事施設での1日以上30日未満の身柄拘束、「科料」は1,000円以上、1万円未満の金銭罰です。これまで大半の侮辱罪の事件は、9,000円か9,900円の科料で終了していました。しかし、女子プロレスラー木村 花さんの悲劇を契機に誹謗中傷全般に対する非難が高まり、そして、こうした誹謗中傷を抑止すべきとの国民の意識も高まっていることなどを理由に、侮辱罪の法定刑が引き上げられました。
 この法定刑の引き上げには、単に厳罰化したというだけでなく、いくつかの法的意味を伴います。1つは、公訴時効が1年から3年に延びたことです。これにより、匿名で書き込みをした犯人の特定等の捜査時間が増えることになります。もう1つは、教唆犯や幇助犯も処罰できるようになったことです。「教唆」とは犯行をそそのかすこと、「幇助」とは犯行を手助けすることを意味します。これまでの侮辱罪の法定刑では、処罰対象は誹謗中傷の書き込みなどをした本人に限られていました。しかし今後は、たとえば誹謗中傷をするようたきつけてそそのかしたり、誹謗中傷するための場所、空間または道具等を提供するなどして手助けした者も処罰することが可能になりました。
 今回の改正は法定刑の引き上げのみです。侮辱罪の成立範囲に変更はありません。
 侮辱罪と似た犯罪に名誉毀損罪があります。両罪とも、公然と人の社会的評価を下げるような言動をし、侮辱ないし名誉を毀損すれば成立します。両罪の違いは、事実の摘示の有無です。名誉毀損罪は事実を摘示した場合、侮辱罪は事実を摘示しない場合に成立します。たとえば、「○○診療所では日常的に不正請求が行われている」といった事実摘示を伴うものは名誉毀損、「バカ」、「アホ」、「ゴミ」などといった事実摘示を伴わないものは侮辱に該当し得ます。
 侮辱にはさまざまな表現内容が考えられますので、どのような発言・書き込みが侮辱に該当するのか、具体的な基準を示すことは困難です。もっとも、法務省が「令和2年中に侮辱罪のみにより第一審判決・略式命令のあった事例」を公表していますので、以下、参考にいくつかピックアップします。
①SNSの投稿欄に「人間性を疑います。1人のスタッフを仲間外れにし、みんなでいじめる。1人のスタッフの愚痴を他院のスタッフに愚痴を言いまくる社長 1人のスタッフの話も聞けない社長」などと記載した文章を送信して掲載したもの。
②インターネットサイトの被害法人に関する口コミ掲示板に、「詐欺不動産」、「対応が最悪の不動産屋。頭の悪い詐欺師みたいな人。」などと掲載したもの。
③インターネットサイトを運営している企業の取締役が、共犯者と共謀の上、「地域医療に貢献!? ○○(被害者経営の医院名)」と題し「こんなおもちゃの剣ごときを自慢しているようでは、○○(被害者名)の頭のなかはお花畑なのではないでしょうか?」などと記載した記事を掲載するなどしたもの。

 もしインターネット上に、侮辱や名誉毀損に該当する可能性のある診療所の口コミ等が掲載された場合、警察や弁護士にご相談ください。

井上雅弘
●銀座誠和法律事務所

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