Q&A コロナワクチン接種を考慮した外科手術のタイミング|デンタルダイヤモンド 2022年8月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2022年8月号より「コロナワクチン接種を考慮した外科手術のタイミング」についてです。

口腔外科手術を行う時期は、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を考慮したほうがよいのでしょうか。何か目安があれば教えてください。
●大阪府・S歯科クリニック

まず、各mRNA、ウイルスベクター、組換えタンパクCOVID-19ワクチンと外科手術時期の適切な間隔について、いずれも医学的に明確なエビデンスに基づいた基準はないことをご理解ください。そのうえで現在、日本口腔外科学会では関連外科系学会の見解も参考に以下の提言を行っています。

1.外科手術後からワクチン接種までの待機間隔

1)一般社団法人日本医学会連合の提言(2021年7月29日発出)
 不活化ワクチンを参考とした一般論として、外科手術後からワクチン接種まで2週間の待機が適当ではないかとしています。
2)公益社団法人日本麻酔科学会の提言
 Royal College of Surgeons of England(22 January, 2021)の例として、術後の反応とワクチン接種による反応を区別できるよう、数日間(最大で1週間)の待機を挙げています。
 また、米国疾病予防管理センター(CDC)(May 13, 2021)の例として、手術や麻酔による免疫能の低下が抗体産生に影響しないように2週間の待機期間を挙げています。

2.ワクチン接種後から外科手術までの待機時間

1)一般社団法人日本医学会連合の提言(2021年7月29日発出)
 ワクチン接種後の一過性の副反応が収まる3日目以降に手術は可能としています。
2)公益社団法人日本麻酔科学会の提言
 前述の1.の2)の文章のなかで、接種後数日で手術可能としています。
3)一般的なワクチン
 全身麻酔や手術が免疫能を低下させるという観点から、ワクチン接種後、不活化ワクチンであれば1週間、生ワクチンであれば4週間空ける施設が多いです。しかし、最近では不活化ワクチンであれば3日間の待機で許容する施設もあるようです1)

3.全身麻酔における待機期間(図1)

 以上の見解を踏まえて、全身麻酔における通常の2〜3時間程度の口腔外科手術であれば、不活化ワクチンに準じてワクチン接種前後約1週間以上の待機というのが妥当かと思われます。また、手術侵襲の大きい口腔外科手術(悪性腫瘍の手術など)であれば、術後の免疫能低下を考えて術後2週間以上空けてのワクチン接種が妥当かと考えます。
 なお、手術後のワクチン接種の時期の可否は、術後経過をみたうえで医学的判断で行うのはいうまでもありません。

図❶ 全身麻酔手術の場合

4.局所麻酔における待機期間(図2)

 局所麻酔下および静脈内鎮静下で実施可能な智歯抜歯や外来小手術などの口腔外科小手術については、抜歯後1週間以降に(抜糸時に手術部位を確認したうえで)ワクチン接種可能の許可を与え、ワクチン接種後であれば3日以上経過して副反応が軽度ならば、抜歯などの実施は可能だと考えます。
 また、ワクチン接種日には口腔外科小手術による抗菌薬や鎮痛薬を服用していないほうが望ましいと考えます。

図❷ 局所麻酔手術(抜歯、外来小手術など)の場合

5.その他

 ただし、緊急性のある手術については、前述した内容に関係なく行うべきだと考えます。

 

【参考文献】

1)遠山悟史:外科手術患者.予防接種パーフェクトガイド,小児科診,83(11):1521-1526,2020.

桐田忠昭
●奈良県立医科大学 口腔外科学講座

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